第9章 仮契 〜忍契〜
「さて、起きるか」
顔中にキスの雨を降らせて起き上がった彼を見上げる。
離れた指がちょこちょことシーツを滑りながら近付き、私の指を絡め取って握る。その温もりに酷く安心し、溶かされていくような感覚になった。
「ゆっくりしとってええで。僕、飯作っとるから」
「ごめんなさい、ありがとう」
ええよと指が離れて、開いたままの扉に吸い込まれていく副隊長を見つめた。ゆっくりしてていいと言われたが、離れていく背中に寂しさを感じ、慌てて追いかける。
気付いた彼が振り向いて手を差し出してくれたので、そっとその手に触れる。覚醒した頭では、少しの恐怖を与えてくる。
意を決してぎゅっと握った。優しく引き寄せられて、そのまま後をついていく。
「起きるん?」
「宗四郎さんと一緒にいたい…」
リビングまで来ると頬に手を添えられて、近付いてきた副隊長は首筋に吸い付いた。
それは独占欲ですか?それとも…ただの偽装の為ですか?聞く必要はない。副隊長の答えは知っているから。
跡つけたであろう彼は、そのまま離れることなく何度もキスをして舐め上げる。
鼓動が早くなって息は荒くなるが、手の震えと恐怖心は増していった。
副隊長は離れて深呼吸をしてから、ごめんなと繋がれたままの震える手に口付けた。顔を見て、我慢をさせているのはわかっていた。
「怖がらせる気はなかったんや…ゆっくりしとって」
手が離れて、背中までも遠くなっていく。ご飯を作るのだから当たり前だけど、それがどうしようもなく寂しかった。
お腹に手を回して背中に抱きついた。肩に顔を押し付けると副隊長の匂いがして、すごく安心した。