第9章 仮契 〜忍契〜
何度か優しく名前を呼ばれて目を覚ました。目を開けるとつり目の赤紫が覗いていて、小さく息を呑む。怖いか?と問われると、申し訳なくなった。
寝起きにこの顔は刺激が強過ぎるだけ…。
「おはよ」
「んぅ…おはよぉ」
まだ眠くて声が上手く出せない。そんな私に意地悪く笑って、起こしたろか?と聞いてくる。以前のことを思い出して、本気なのかと彼を見つめた。
嘘やで、と重なったままの手の指が絡む。そのまま引き寄せられて、手の甲に優しくキスをさせれた。少し震えた手を無視して彼は唇を触れさせ続ける。
「まだ寝とってもええねんけど…起こしたなってもうてん」
ごめんなと謝る彼は頬を手に擦り寄せて優しく微笑んだ。その笑顔を見ていれば、ぽかぽかと胸の中心が温まっていく。
「あのね…ドキドキして寝れない」
頬を擦り寄せる彼の髪に触れながら、目を細めた。
「そうなん?ほな、僕が耳元で囁いたら寝れるやろか……僕の声、好きやもんな」
軽く笑って耳元で囁いてくる。耳にかかる息が擽ったくて肩を竦めた。
「ふふ、余計寝れないよ…」
なんだか、不思議と怖いとは思わなかった。この甘さに浸っていたいと思う。いつまでもこのままでいたい。
だけど、そんなのは無理だから、時間が許す限り甘えさせて。
「そうなんか。ほな、あかんなぁ…時間までゆっくりしよか」
今度は額に口付けて離れ、頬を優しく撫でられる。
寝起きでふわふわする頭が、機能していない。いつもなら言わないような言葉がすらすら出てきて、ただもっと触って欲しいと思っていた。
ドキドキはするのに、何故かとても落ち着いていた。