第9章 仮契 〜忍契〜
「……明日も待っていてもいいですか?玄関では待たないから…」
もう少しだけ話していたくて、その声を聞いていたくて話しかける。
「ん…ええけど、布団におりや。ちゃんと休んどき」
明日も遅いのだとわかった。でも、それでもいい。だって、ただいまって言ってくれる。
副隊長の指に光る物をこっそり撫でた。訓練中以外で私といる時はいつもしている。それ以外は知らない。今は知りたくない。優しさの中に沈んでいたいから。
「副隊長…」
「ん…?」
ただ副隊長と呼ぶだけ。呼ぶ度に返事をしてくれる。何度呼んでも答えてくれる。
「宗四郎さん」
「なんや、寝れんのか?澪ちゃん」
久しぶりに呼ばれた名前。偽装の時しか呼んでくれなくなった名前。嬉しくて、嬉しくて…涙が出そうだった。この涙なら隠さなくてもいいと思ったが、困らせてしまうだけだろうと我慢した。
好きだよ、宗四郎さん。
気付いているのかもしれないけど、困らせたくないから、もう少しだけこの想いをしまっておくね。
「ううん、寝れそう。宗四郎さんがいるから…」
「そうか。なら、ゆっくり寝りぃ」
おやすみと呟き合って目を閉じる。
この手の温もりが私を夢の中へと誘っていく。
どうか、ずっと離さずにいて…好きだから、ずっと傍にいて欲しい。