• テキストサイズ

偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第9章 仮契 〜忍契〜


布団を寄せてベッドの上に乗った副隊長は、手を繋いだまま優しい顔で待っていた。その手に力は入っていない。

ベッドの端に膝を乗せて、ゆっくり上がっていく。早くなった鼓動は手を伝って、彼に届いてしまいそう。

「君が安心出来るとこにおったらええ。やっぱ僕の近くは嫌や思たら、自分の部屋行ってええで」

その声はとても穏やかで、私を優しく包み込んでくれているようだった。

私が近付く度に副隊長との距離は縮まっていく。そんなのは当たり前だけど、私が近付いても離れていかない、という現実に嬉しさが募る。

ベッドの端に横になると副隊長も横になり、手は繋がれたままだった。シーツの上に落ちた彼の手の上に私の手が乗っているだけ。

わかっているのに…副隊長が少しでも私に想いがあるのではないかと錯覚してしまう。このまま勘違い出来たらいいのに。

どんなに想っても届くはずはないと思っていた。でも今は、受け止めてくれているような気がする。応えてくれることはないけど、私が望めば優しさを与えてくれる。

心が落ち着いていくのがわかる。

どこまでも優しい人。それが私だけではないと知っているけど、今はその優しさに縋らせて欲しい。許されるまで私は甘えていたい。

「朝になっても、このままでいてくれますか?」

「ん…ゆっくり寝ぇ」

愛しい人は微笑んだ。

どんなに手に入らない心だとしても、私に向けてくれる笑顔も優しさも…これだけは私のもの。
/ 409ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp