第9章 仮契 〜忍契〜
シャワーを浴び終えて少しすると、寝室に行こうとする副隊長についていった。小さな足音をひょこひょこと忍ばせながら、大好きな背中を追いかけた。
離れないで…と思いながら。
もし、来るなと言われたらどうしようと、少し鼓動が早くなる。少し息が苦しくて、手をぎゅっと握り締めた。それでも傍にいたかった。
寝室の扉を開けた副隊長が振り返る。
「おいで」
たった一言。それだけで心が溶かされていく。
微笑んで扉を開けて待つ副隊長に少しずつ近付いた。ゆっくりでも副隊長は何も言わずに、優しい顔のまま待ってくれている。
一緒にいていいんだ…。
震える手を握り締めて、副隊長が待っている寝室にそっと足を踏み入れた。
「怖いか?大丈夫やで。僕から手を差し伸べるけど、その手を取るかは君の自由や」
優しく手を差し伸べてくる。この手を取っても、副隊長は強引に触れて来ないだろうか…少し不安になりながらも、その手の温もりで安心したかった。
指先でちょん…と手の平に触れる。この手はいつも私を優しく包み込んでくれた。あの夜の痛い程の力強さは感じられない。
そのままそっと手の平を乗せると、軽く握ってベッドへと進む。
寝室の扉は開いたままだった。