第9章 仮契 〜忍契〜
「いつから食えてへんの?ほぼ寝てもないやろ。僕のことは寝て持っとってくれたら、嬉しいんやけどなぁ」
私に手を伸ばしてくる彼は確かめるように、触れる手前で一瞬動きを止める。私が何も反応しないとそのまま頬に触れて撫でてくれる。その手に擦り寄った。
触れられるのはまだ怖い。でも…同時に安心もする。このままこの手が、ずっとここにあったらいいのに…。
「……重い?」
「正直な…」
ごめんねと微笑んで謝れば、ゆっくりと手が背中に回されていく。そのまま抱えられてリビングへと連れられた。
この手がないと、私はもう生きられないような気がした。
この人に近付く度、知らないことを知れる度に、想いが膨れ上がっていく。私の想いだけが大きくなっていく。
もっと私に触れて欲しい。キスをして欲しい。そんな欲望が私を支配していく。それでもグッと内に閉じ込めた。
ただ私は、この手の温もりを感じていた。