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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第9章 仮契 〜忍契〜


あれから毎日、副隊長の帰りは遅かった。あまり眠ることもご飯を食べることも出来ず、身体は重くなる一方。

わかっている、自分が副隊長に依存していることや、この玄関で待つ重さも…副隊長も重いと思っているはず…気持ちすらもバレてしまうかも。

最近、副隊長の足音にも意識を向けることが出来なくなった。

訓練を終えて基地から帰ってきて、靴を履いたまま玄関で座り続ける日々。涙を流すことはないけど、指輪が光る手や肩は震えていた。

鍵が開く音が聞こえて咄嗟に反応出来なかった。座り込んだままの姿が副隊長の目に映る。それでも急に立ち上がることは出来なかった。

副隊長を見上げて笑顔を作る。

「おかえりなさい」

私にはその言葉だけが許されている。問い詰めることなんて、出来る立場ではない。私はただ、あなたの帰りを待っている。

甘く香る女物の香水を漂わせて、少し呆れたように笑う副隊長の姿がぼんやりと見えた。

「ただいま……君もようやるわ。玄関で待つんやめろ言うたやん、健気やなぁ。そないに僕が待ち遠しいんか?」

ただ笑ってはい…と返した。私の気持ちはバレているような気がした。

そりゃそうだ、毎日玄関で待ち続けるなんて、偽装の妻がするわけない。もうなんでもいい。ただいまって玄関を開けてくれるだけでいいから…私がいるこの家に帰ってきて…。
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