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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第8章 仮契 〜試契〜


どのくらいかわからない。ただ、玄関でボーッと座っていると、足音が聞こえてきた。この足音は副隊長…帰ってきてくれた。それだけが心を支配した。

このまま帰って来ないのかと思っていた。朝、基地に行ったらおはようって言われるんじゃないのかと思っていた。

すぐに立ち上がって、出迎える準備をする。

玄関の扉が開いて副隊長が入ってくると、甘く香る何かが鼻を擽る。女の人の香水…胸が傷んだ。

それでも、彼の左薬指に光る物を見て安心する。

「おかえりなさい」

ニコニコと笑顔を見せて、何事もなかったかのように振舞った。

「おう、ただいま。なんやお前、また玄関で待っとったんか?寝とけ言うたやろ、ほんまに…」

それは彼も同じだった。今まで何をしてかなんて言わない。誰と会っていたかなんて言わない。言う必要がないのだ、私とは偽装結婚だから。

えへへ、と誤魔化しながら一緒にリビングに行き、ご飯は食べたのかを聞くと、食ったと帰ってきた。あの女性と食べたのだろうか。

ずっと胸に引っ掛かりはあるけれど、今はただ、愛しい人がここにいる喜びに浸った。
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