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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第8章 仮契 〜試契〜


副隊長と別れて、指輪をちらちらと見ながら帰路を辿る。そんな時目に入ったのは、ネオンの光で紫色に光る黒髪が揺れる姿だった。腕に女性を絡ませながら…。

ニコニコと笑う彼に顔を近付ける女性。私の位置からだと唇が触れたかどうかはわからなかった。それでも、また見えた彼の顔は笑っていた。

その後2人がどこへ行ったかは知らない。私はすぐに家に帰ってきたから。

"アヤ"……ふと、副隊長が寝惚けて私をアヤと呼んで口付けてきたことを思い出す。その女性なんだろうか。寝惚けて呼ぶくらいだ、副隊長の気持ちはあの人にあるのかもしれない。

靴も脱がずに玄関に座り込む。

「……浮気、じゃないんですか…」

結婚してても、普通はあんな風に他の女性と距離が近いのだろうか。そう思ったが、副隊長が私との距離が近いことを思い出し、彼は誰にもああなんだ…と心を沈ませた。

床に落とした左手の指が光る。この指輪は、偽装の為の物。ましてや、副隊長からもらったわけではない。わかっているのに、この指輪に縋りたくなる。意味はないのに…。

指輪に縋るように左手を抱えて額をつけた。胸が苦しい。息が上手く出来ない。このまま止まって欲しいとさえ思う心臓は、どんどん早くなっていく。

私が拒んだからですか?怖がってるからですか?もしあなたが誰のところにも行かないと言うなら、幾らでもこの身体を差し出します。

だから、お願い…早く帰ってきて…。
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