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偽りの私たちが零す涙は【保科宗四郎】

第3章 重奏


休日、訓練をする隊員たちを見つめていた。みんなを見ているはずなのに私の視線は一人の男を追うばかり…さらさらの紫がかった黒髪を汗で濡らし、少し額に貼り付けながら揺らす…しなやかな動きに刀が空気を裂く音。それだけが私の五感を支配した。

閉じていた瞼が少し開くと赤紫は目線を変え、私の視線と交差する。瞬間、心臓が大きく跳ねた。見てるのバレた…!すぐに目を逸らして、訓練室から逃げた。

さすがにあからさま過ぎただろうか…廊下の隅で壁に背中を擦りながらしゃがみ込んで膝を抱えた。どうしよう…このままだと私の気持ちがバレてしまう。伝える気なんてないのに。

「朝霧?どしたん?」

体調でも悪いのかと肩に触れられ身体が跳ねる。どうして追いかけてくるんですか…。保科さんは謝りながら屈み、目線を合わせてくる。

「顔、赤いな…大丈夫か?」

「だ、大丈夫です…少し頭が痛くて…」

熱でもあるのかと額に触れられて、ぎゅっと目を瞑った。保科さんのせいです…保科さんのせいで顔は熱いし、頭がボーッとする。触れられたところから彼の熱が伝わって、じんわりと熱を持ち始める。

苦しい…心臓痛い。額から手を離されても目を開けることが出来ずに俯く。保科さんは大丈夫と言った私の隣に来て、楽なるまでいよか?と背中を摩り始めた。余計熱を持ってしまう…。

「辛かったら僕に身体、預けてええで?」

優しくしないで…本当に大丈夫ですからと膝に顔を埋めて呟く。優しくされる度に好きが膨れ上がっていくの。たぶんあの日から私は保科さんのことが好きで…戦う姿や慰めてくれた優しさに惹かれてしまった。

そうは見えへんでと引き寄せられて、頬が彼の胸についた。保科さんの匂いがする。汗に混じった爽やかで柔らかい香り。微かに保科さんの鼓動が聞こえるけど、それは私のうるさい程に高鳴った心音に掻き消される。

結局私はそのまま優しく抱き締められる感覚に耐え続けるしかなかった。

「あの…もう大丈夫です」

「ほんまに?まだ顔赤いで?」

これは保科さんのせいだから…訓練に戻ってくださいと軽く胸を押して離してもらう。そうすると保科さんはやっと訓練に戻るようで、私も大丈夫だと言って訓練室に戻った。
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