第103章 川辺の再会〜冨岡義勇【R強強】
宿を飛び出したゆきは、案内役の隠の元へ駆け込み、今すぐ里を去りたいと告げた。
しかし、「柱の許可がなければお送りできません」と困り顔で断られてしまい、ゆきは途方に暮れる。
今はただ、無一郎と美月から、できるだけ遠くへ逃げたかった。
ゆきは当てもなく時間を潰し、二人が日輪刀を受け取りに鍛冶場へ向かうのを見計らって、気配を殺しながら宿へと戻った。
手早く荷造りを済ませ、逃げるようにそこを後にする。
里の離れにある静かな宿を見つけ、事情を話して部屋を借りることにした。
宿の主人はとても親切で、疲れ果てたゆきを温かく迎え入れ、里を出たいという願いに「それなら、私が腕の立つ隠を手配しましょう」と優しく微笑んでくれた。
張り詰めていた糸が切れ、ゆきはぽろぽろと涙をこぼす。
一方、無一郎は、激しい後悔の念に駆られていた。
叩いてしまった手の震えが止まらない。
いつもなら冷静なはずなのに、ゆきのことになるとどうしてこんなに余裕をなくしてしまうのだろう。「どうせ、すぐに寂しくなって戻ってくるはずだ」…そう自分に言い聞かせ、焦る心を必死に抑えていた。
だが、鍛冶場から戻り、静まり返った部屋の襖を開けた瞬間、無一郎は息を呑んだ。
ゆきの荷物が、跡形もなく消えている。
「…ゆき?」
ぽつりと呟いた声は、静かな部屋に虚しく響くだけだった。
彼女の温もりも、お気に入りの匂いも、すべてが消えていた。
「無一郎様…これは?」
美月が、横から顔を出してきて部屋の中を見た。もぬけの殻になった部屋が美月の目に映る。
「探しに行かなくちゃ…」
そうつぶやいた無一郎に、美月は抱きついた。
「無一郎様…もうあの人に振り回されるのは辞めてください。」
無一郎は、美月を身体から離そうとする…
「婚約という言葉だけで結ばれた関係だと、薄々気づいているのですよね?」
「はっ?何言ってるの?そんなわけ無いでしょ…」
「無一郎様も疲れてきたから簪の件だってわざと私の肩を持ったのですよね?」
違う…違う…ゆきは、僕のことが好きなんだ。
何度も愛し合った…身体で応えてくれた…。
「無一郎様…少しゆきさんと距離を置きましょう」
そう言って美月は、無一郎を部屋にとどめた。