第100章 期待〜時透無一郎 冨岡義勇【R強強】
夕刻の柔らかな光が差し込む中、準備を整えたゆきは玄関先に腰掛け、無一郎を待っていた。
いつもとは違う、どこかそわそわとした空気が彼女を包み込んでいる…。
そこへ、稽古を終えた無一郎がやってきた。
「ゆき、おまた…せ…」
声をかけようとした無一郎が、玄関先で佇むゆきの姿を見て、不意に息を呑んだ。
その瞳が、驚きと見惚れたような色彩に染まっていく…。
「かわいい…」
ぽつりと言い落とされた素直な言葉に、ゆきはたちまち頬を赤く染めた。
「あ、あの…隠の方が、せっかく食事会に行くのだからお化粧を軽くした方がいいって…してくれたの」
恥ずかしさに俯くゆきを、無一郎は静かに見つめ返す。
「よく似合ってるよ。…すごく、綺麗だ」
無一郎は少し顔を赤らめたまま、愛おしそうにゆきの手を引いて歩き出した。
その手のひらは、驚くほど優しくゆきの手を包み込んでいる。
繋がれた手の温もりに胸を震わせながら、ゆきはふと周囲を見回して首を傾げた。
「あれ? 美月さんは行かないの?」
美月不在を尋ねると、無一郎は前を向いたまま、少しだけ繋ぐ手に力を込めた。
「今日は、君と二人だけだよ」
その言葉に、ゆきの胸が小さく跳ねる。
無一郎の横顔は、いつもより少し大人びて見えた。
二人きりで歩む、不死川の屋敷へと続く道。
夜の帳が静かに下り始める中、ゆきは無一郎の優しさに救われながらも、それに、昨夜あんなに激しく抱かれたにもかかわらず、心のどこかでまだ消えない「あの人」の面影を抱えていた…。
口下手な義勇さんは、こんな集まりには来ないよ…そう、来ない…
そう自分に言い聞かせながらゆきは、不死川の屋敷へと向かった。
この先に待ち受ける運命の悪戯を知る由もないまま、ゆきは無一郎と並んで歩いた…。