第100章 期待〜時透無一郎 冨岡義勇【R強強】
月明かりを浴びながら、義勇はただひたすらにゆきのいる無一郎の屋敷へと向かって走り続けていた。
あと少し、もうあと少しで到着する…。
頭の中で、具体的な思考が目まぐるしく交錯した。
どうやって彼女に会う?
正面から行くべきか、それとも塀をよじ登って忍び込むべきか。
常識や立場など、今の義勇の頭にはなかった。
ただ一刻も早く彼女のゆきを目に焼き付け、その身体を強く抱きしめたい。
その抑えきれない衝動だけが、義勇の身体を突き動かしていた。
だが、感情が最高潮に達したその時…、突如として前方の暗がりに人影が立ちはだかった。
「……!」
鬼か、と直感した義勇が瞬時に日輪刀の柄へ手を掛けたのと同時、月光に照らし出されたその顔が目に飛び込んでくる…。
そこにいたのは、不死川だった。
「冨岡ァ…。夜中に形振り構わず、一体どこへ行くつもりだァ?」
地を這うような低い声と、鋭い視線が義勇に突き刺さる。
しかし、今の義勇には立ち止まっている時間など一秒すらなかった。
「…どこでもいいだろう。急いでいる、道を空けてくれ」
目も合わさずそのまま横を通り過ぎようとする。
だが、その瞬間、不死川の無骨な手が義勇の肩を強く掴み、その場に留めた。
凄まじい力だった。
「なんの真似だ」
義勇の声に微かな苛立ちが混じる…。
しかし、不死川は不敵な笑みを浮かべたまま、掴んだ手にさらに力を込める。
「貴様こそォ、何の真似だ、あァ?」
「お前には、関係のないことだ」
淡々とした口調を崩さぬまま、義勇は不死川の手を強引に押し除け、再び歩みを進めようとする。
その頑なな態度に、不死川は食らいつく
「関係ねェだと? …じゃあ、てめェのその行き先は、ゆきのいる場所じゃねェって言うんだなァ?」
その名前が響いた瞬間、義勇の足が、ピタリと止まる…。
「なぜ?ゆきの所へ向かっていると思うんだ?」
「何となく感だァ、冨岡辞めておけェ…」
そんな言葉を、無視して進もうとする義勇…不死川は、苛々しながら声を荒げた。
「これ以上ゆきを、混乱させるなァ!今やっとあいつァ落ち着いてきてんだァ!邪魔するな!」
義勇の足が、止まる…
「不死川…逢いたいんだ…。」
義勇の見たことのない弱々しい姿に、不死川は言葉を失った。