第99章 逢いたくなったら〜冨岡義勇 時透無一郎 【R強】
その夜を境に、二人の間には決定的な溝ができてしまった。
無一郎はあからさまにゆきと距離を置くようになった。
けれど、その冷たい態度は、ゆきを嫌悪しているからだけではないようにも見えた。
時折、ふとした瞬間に彼が向ける視線には、怒りよりもむしろ、どう接していいか分からないような戸惑いと、深い葛藤が滲んでいたからだった。
近頃は鬼の出現もめっきりと減り、無一郎が任務に出ることも少なくなった。
それなのに、できた時間はゆきではなく美月に費やされていった。
二人が「刀鍛冶の里」へ刀の調整に行く計画を立てているの事を知った時、ゆきの心は引き裂かれそうだった…。
今の私は、鬼殺隊をすでに除隊した身だ…
あの日、無一郎の隣にいるために、継子としての誇りもすべてを捨ててここへ来た。
もう二度と、戦場で日輪刀を抜くことなどない。
それでも、部屋の隅には日輪刀が大切に置かれていた。
それは義勇さんのもとで戦っていた頃の記憶であり、今の私と無一郎くんを辛うじて繋ぎ止める、最後の蜘蛛の糸のようでもあった。
このまま、本当に終わっちゃうのかな…
このまま心の距離が開いていくのが、怖くてたまらない。
無一郎くんだって、もしかしたら私と元通りになりたくて、だけど掛け違えたボタンの戻し方が分からずに苦しんでいるのかもしれない…
そんな淡い期待と、置いていかれる恐怖に突き動かされ、ゆきは意を決して刀を抱き締めた。
無一郎のもとへ向かい、恐る恐る声をかける。
「あの…無一郎くん」
振り返った彼の瞳に、一瞬だけ揺らぎが走る。
拒絶される恐怖にすくみそうになりながらも、ゆきは必死に言葉を紡いだ。
「私も…前に使っていた刀の調整に行きたくて。お願い、一緒に連れて行ってくれないかな…?」
無一郎は、ゆきから背を向けたまま答える
「使わないでしょ?」
「だ、だけど…」
背を向けていた無一郎が、ゆっくりとゆきに近づいていく…
ゆっくり手を伸ばし、頬に触れてくる。
「もしかして嫉妬しているの?」
「えっ…?違う」
「美月に嫉妬してるでしょ?まだ美月の事を嫌っているの?」
「だから違うって!」
ゆきが、潤んだ目を下に向けると同時に無一郎の手に落ちた涙が伝う…