第99章 逢いたくなったら〜冨岡義勇 時透無一郎 【R強】
その晩静かな足音が部屋の前で止まり、襖がゆっくり開いた。
立っていたのは無一郎だった。
「ぷりん?だったかな。美味しかったよ」
どこか上の空な声…私は胸の奥がズキンと痛むのを感じながら、精一杯の声で返した。
「よかった」
それきり、言葉が途切れ息が詰まるほどに気まずい空気が流れる…
無一郎くんは、私のいつもと違う様子に気づいたのか、見透かすような瞳でじっと見つめてきた。
「夕食を部屋で取ったんだってね。…何で?」
「あ…うん…別に、ちょっと体調悪くて」
嘘
本当は、二人の間に入るのが苦痛になっているから…
「僕にはわかるよ。美月でしょ? 美月がいるから来なかったんでしょう」
「違うよ…!」
思わず声を荒らげてしまった…
美月さんがいるからだけじゃない。
無一郎くんが、私といる時よりも楽しそうに彼女と話すから…私のことなんて忘れたみたいに、彼女ばかりを見つめているから…。
そんな惨めで嫉妬深い本音、無一郎くんが聞けば私に幻滅するかもしれない…
「美月と君は色々あったけど、彼女は今では心を入れ替えてる。いつまでもねちねちと毛嫌いするなんて、君らしくないよ」
―君らしくない。
冷たく放たれたその言葉が、私の心に深く突き刺さる。
じゃあ、私らしいって何…?
無一郎くんの隣にいるために、義勇さんの優しい手のひらも、継子としての誇りも、全てを捨ててここに来たのに。
今の私は、彼にとってただの心の狭い、邪魔な存在でしかないの?
視界が、一気に涙で滲んで歪む。
これ以上、無一郎くんの口から酷い言葉を聞きたくなくて、私は両手で彼の胸元を、突き放すように強く押した。
「もう…出て行って…!」
「ちょっと、何するの?」
「寝るから! お願いだから、部屋から出て行って…!」
涙をボロボロとこぼしながら自分を押し出そうとする私に、無一郎くんは心底呆れたような、表情を浮かべていた。
「いい加減にしないと、僕だって怒るからね。もう知らないよ?本当に」
感情の消えた声でそう言い捨てると、彼は勢いよく襖を閉めて去って行った。
ピシャリと閉まった襖の音が、暗い部屋に虚しく響く。
一人きりになった部屋で、私は崩れるように畳に伏せ、声を殺して泣き続けた。