第97章 忘れたい〜時透無一郎 不死川実弥【R強強】
しばらくの間、二人は重なり合ったまま、言葉もなくただ互いの名残惜しい熱を確かめ合っていた。
静かな部屋の中で、先に沈黙を破ったのは無一郎の声だった。
「ねぇ…なんで急に、こんなことしたの?」
その瞳は、先ほどまでの情熱はなくどこか冷めていた。
ゆきは何も言えず、ただ唇を噛みしめることしかできなかった…。
「一ヶ月も僕をお預けにしておいて…今こうやって身体を重ねておけば、僕が大人しくなるとでも思った?」
「ち、違う…!」
いたたまれなくなったゆきは、無一郎の腕から逃れるようにして身を起こし、布団の隅に膝を抱えて俯いた。
さっきまで彼と深く繋がっていた場所から、ドロリと熱いものが流れ落ちていく。
それは確かに、先ほどまで注がれていた無一郎の愛の証のはずなのに、今はひどく切なく、悲しい感触として皮膚を伝っていった。
「…何も話してくれないなら、もう帰ろう。美月も心配しているだろうし、僕も稽古の途中で置いて出てきてしまったから、みんな心配してる」
無一郎はそれ以上追及することなく、淡々と着崩した衣類を身に付け始めた。拒絶されたような寂しさに胸を締め付けられながら、ゆきもまた震える手で服を纏う。
宿を出ると、外の空気は冷たく、真っ暗だった。
無一郎は相変わらず、かなり前を歩いていく。
突き放すような彼の背中を見つめていると、堪えきれずに涙がポロポロと溢れ落ちた。このままではいけない…どんどんすれ違っていく。
ゆきは足を止め、決心してその背中に向かって声を張り上げた。
「無一郎くん!…そこでいいから、お願い、聞いて!」
無一郎がゆっくりと振り返る。
その感情の読めない瞳にじっと見つめながら、ゆきは溢れる涙を拭いもせず、胸の奥に隠していた秘密を…本心を叫んだ。
「ずっと忘れられないの…あの人が…義勇さんを忘れたいのに、忘れられないの!」
無一郎は、悲しい笑顔をゆきに向けた
「努力して忘れて。もう君には関係のない人だから、君は鬼殺隊も除隊した。僕と婚姻する時が来るまで好きな事をして過ごして…料理を教わったり色々あるでしょ?気を紛らわせる事が、冨岡さんを忘れる努力をして。わかった?」
そう言い終えると前を向き歩き始めた。