第97章 忘れたい〜時透無一郎 不死川実弥【R強強】
不死川の背中が遠ざかる中、重苦しい沈黙が二人の間に漂う…。
ゆきは必死に無一郎の袖を掴もうと、その背中を追いかけた。
「無一郎くん! 不死川さんは本当に、お兄さんのように私のことを思ってくれていて…」
「わかったよ。もうわかったから、しつこいよ」
冷たい声が返ってくる。
無一郎は振り返りもせず、ただ淡々と、足早に歩みを進めていく。
「だって、ずっと怒ってるから…」
「怒ってない」
「怒ってるよ。歩くの、だって…すごく速いし…」
「いつもこんな速さだけど」
突き放すような言葉。
どんどん離れていく彼の背中を見つめるうち、涙で前が見えなくなる…
…こんな時…
こんな風に置いていかれそうな時、いつも義勇さんなら、何も言わずに私の歩幅に合わせて歩いてくれたのに…
気づけばまた、胸の奥で義勇の面影を追いかけてしまっている。
その優しさにまた触れたくなる…
けれど、そんな自分に酷い罪悪感を覚え、ゆきは慌てて首を振って未練を振り払った。
「無一郎くん、待って…!」
走って無一郎を追いかける。
その必死な足音に、無一郎は不意に足を止めた。
振り返った彼の表情は、怒りではなく、どこか子供が拗ねたような表情だった。
「…ずるいよ、君は」
無一郎はぽつりと呟くと、追いついたゆきの手首をきゅっと強く掴んだ。
「怒ってない。ただ、君が僕以外の男の人の胸の中にいるのを見て、胸がすっごく痛かっただけ…」
潤んだ瞳でゆきをじっと無一郎は見つめた
「僕じゃ、駄目なの?」
「だ、駄目じゃない!」
ゆきの手首を掴む手に力がこもる。
「もう君をずっと抱いてない…一緒にも眠ってくれなくなったし」
「それは…」
「もしかして…不死川さんと…」
「違う!」
ゆきは、目に涙を溜めて否定した。
「必死過ぎて逆に怪しいけど…」
ゆきは、無一郎の腕を掴んで街をキョロキョロしながら彷徨い始めた。
「何?早く帰るよ…」
ある場所で、ゆきの足が止まる
そこは、あの雨の日…義勇と雨宿りで過ごした宿の前だった。