第97章 忘れたい〜時透無一郎 不死川実弥【R強強】
不死川さんが連れてきてくれたのは、彼が伊黒さんとよく行くという馴染みの甘味処だった。
運ばれてきたあんみつを頬張る私を、不死川さんは少し離れた席から不器用に見つめている。その前には、彼の大好物であるおはぎ。
「不死川さん、本当におはぎが好きなんですね」
「あァ、好きだ。文句あっか」
照れ隠しのようなその態度が可笑しくて、私は久しぶりに声を上げてくすくすと笑った。
甘味処を出た後は、近くの河川敷へと向かった。夏を間近に控えた川辺は、風がひんやりとしていて心地いい。
きらきらと光る水面を見つめているうちに、私は、足袋を脱ぎ捨てて裸足で水の中へと飛び込んだ。
パシャパシャと水を跳ね上げる私を見て、不死川さんは「おいおい」と苦笑しながらも、どこか安心したように目を細めている。
私の心が少しでも救われていることを、何より喜んでくれているようだった。
「ゆき! 俺ァちょっと昼寝する。帰りたくなったら声掛けろ」
そう言って、不死川さんは草むらにごろんと横たわり、腕枕をして目を閉じた。
ゆきが、久しぶりに訪れた平穏な時間に身を委ねていた、その時だった。
「あっ、痛っ…」
小さな悲鳴を上げて、ゆきはその場に座り込んでしまった。
その声に、うとうとしていた不死川が跳び起きる。
「ゆき!? どうしたァ!」
血相を変えて駆け寄ってきた不死川は、ゆきの足元を見て顔をしかめた。
水底に沈んでいた小さなガラスの破片を踏んでしまい、足の裏からじわりと赤い血が流れていた。
「すまねェ、俺がちゃんと見てねェから!」
「違います、私がはしゃぎすぎちゃって」
痛む足を押さえるゆきを安心させるように、不死川は「喋るな」と優しく遮ると、迷わずゆきの前に大きな背中を差し出した。
「おんぶだ。俺の屋敷がすぐそこにある。手当てするから」
「でも、汚れちゃいます」
「いいから早くしろォ!」
少し怒ったような声。だけど、私を乗せたその背中は、驚くほど広くて、温かくて、そしてかすかに震えていた。
一度に色々な事があり過ぎたゆき…
兄のようにゆきは、不死川の事を思っていたので何故か、その背中に安心して身を委ねた。
そして二人は、不死川の屋敷へと向かった…。