第97章 忘れたい〜時透無一郎 不死川実弥【R強強】
朝食の席に足を踏み入れると、ひんやりとした空気が肌を刺した。
そこに座っていた美月が、ゆきの姿を認めた途端、動きを止める。桜色の着物に身を包んだゆきを、じっと睨んできた…。
「ゆき、その着物…」
その美月の言葉は、無一郎の明るい声にかき消された。
「どうかな、似合ってるでしょ?僕が選んだんだ」
無一郎は子供のような無邪気さで、ゆきの肩を抱き寄せた。
自慢げなその様子に、美月の表情が目に見えて曇っていくのがわかった。
ゆきを睨む視線は鋭さを増し、胸の奥がちくりと痛む…。
私はただ、気まずさに耐えかねて俯くことしかできなかった。
「ゆき、食べ終わったら街へ出かけよう。何でも好きなものを買ってあげる」
無一郎の優しい言葉が、この場をさらに張り詰めたものに変えていく。美月が箸を置く音が、静かな部屋に不自然に響いた。
「無一郎様…?今日も、私と簪を探しに行く約束を…」
震える声で問う美月に、無一郎は悪びれもせず言い放った。
「その件なら隠たちに頼んであるよ。今日は三人来てくれるから、彼らに任せておけばいい」
美月は暗い表情を見せて、半分以上残った食事をそのままに、何も言わずに部屋を飛び出していった。
閉まる襖の音が、寂しく響く。
「無一郎くん、そんな…私のことはいいの。美月さんと行ってあげて」
「嫌だ。今日は君と一日、ずっと一緒に過ごすと決めているんだ」
「私は一人で平気だから」
「平気じゃないでしょ?昨日抱き締めようとしたら嫌がられた…昨日の君は、変だった。平気な振りをしているだけでしょ?」
「そ、それは…」
無一郎は、ゆきに近づき頬に触れる。
「冨岡さんが、忘れられないの?」
「ち、違う!とにかく今日は、最初に約束していた美月さんを優先して」
ゆきは、思わず大きな声を出してしまった…はっとして両手で口元を抑える…。
「…わかった君がそんなに言うなら、美月の簪探しに行ってくるよ」
無一郎は、朝食も取らずに美月の後を追い行ってしまった。
元々は、美月さんと無一郎くんは約束してたんだからこれでいいのよ。
私が邪魔者なんだから…
私のせいで、誰かの幸福を奪うような事はしたくない…。