第93章 産屋敷邸での波乱〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
「私は、無一郎くんが好きです」
そう…私には無一郎くんがいる。
隣で無一郎くんの気配が変わった。彼が私の指先を優しく握り締めると、その温度に救われるような思いがした。
けれど、正面に座る義勇さんの表情を見る勇気は、今の私にはない。
「ふふ、まあそうなるでしょうね」
しのぶが、冷ややかに義勇に告げた。
「冨岡さん、きっぱり振られちゃいましたよ? これで諦めがつきましたか?」
義勇は微動だにしない。
黙ったまま反論することもなく、ただ床の一点を見つめていた。
無一郎はゆきの腕を持ち立ち上がると、義勇から遠ざけるように自分にゆきを引き寄せた。
「僕達はこれで失礼します」
無一郎が部屋を去ろうとしたその時、背後で、低い義勇の声が響いた。
「俺は……諦めない」
義勇さん…
その剥き出しの感情と重苦しさに、私の胸は締め付けられ、息が止まりそうになった…。
義勇さんの不器用すぎる想いが、私の中に真っ直ぐに入ってくる…。
二人が去った後、部屋はしんとしずまりかえっていた。
しのぶは悲しげな笑みを義勇に向けた。
「冨岡さん。あなたが私に気が無いことくらい、最初からわかっていました。ずっとゆきさんを一途に想っていたことも」
しのぶは静かに立ち上がり、義勇を見下ろした。
「私達は清く、離れましょう。ただ……隊士宿舎で流れていたあなたとゆきさんの噂、私達が婚約を解消する事により、また良からぬ噂が立つかもしれませんが、それはもう私は知りませんからね」
しのぶは、そう言い残し部屋を出ていった。
義勇は、一人部屋に残され物思いにふける…。
考えるのはただ一人…ゆきの事
俺は…自分にもう嘘をつかない。たとえ報われなくとも俺はゆきを想う…。
ゆきもまた、一人部屋で義勇の事を考えていた…
あの日もらった【愛している】と書かれた手紙を胸に抱き…。