第87章 口付け【R18】冨岡義勇
「…泣くな。俺が悪かった」
零れ落ちる大粒の涙を、義勇は狼狽えたように自身の羽織で拭った。
義勇の指が、羽織越しにゆきの頬を優しく、不器用に撫でる…。
「ぎ、義勇さん…羽織が汚れてしまいます…!」
驚き、咄嗟にその胸を押し返そうとするが、動かない。
それどころか、ゆきをそのまま力強く抱き寄せた。
「汚れても構わない。それよりも、お前が泣いていることの方が…俺には堪える…」
しかしその瞬間ゆきの口から小さな悲鳴が漏れた。
「んっ…!」
数日前、稽古で義勇につけられた背中の痣に、強い圧迫が走った。
義勇は、焦り即座にその腕を緩めた。
「すまなかった…まだ、痛むのか。なかなか良くならないな…」
何?…変だよ…妙に優しくて甘い…。さっきは素っ気なかったのに
調子が狂うよ…
そんな事を考えていたゆきに、義勇は、羽織越しにそっと背中を撫でてきた。
熱を持った掌が、痣の痛みを甘い痺れへと変えていく…。
昔話をしていたからなのか…かつて義勇に恋焦がれていた頃のように、触れられるだけで胸が張り裂けそうになる…。
「ぎ、義勇さん…離してください。隠の方々に見られたら、また妙な噂が…」
しかし、屋敷常駐の隠たちは、二人を昔からよく知っている…仲睦まじい頃からずっと…
どんな二人の様子を見ても少々は驚かない
隠達は口には出さないが、義勇とゆきに一緒になってもらいたいと強く願っていた。
だが、今日に限って、隊士宿舎から手伝いに来ていた隠が、一人紛れていた…。
その隠は、物陰から二人の密やかな様子を凝視し、絶句していた。
「噂は、本当だったんだ…水柱と継子のゆきの噂…体の関係があるって…抱き合ってるし」
ーーー
そうこうしている間に、日が暮れる時刻になっていた。
ようやく義勇は、胸の中に抱きしめるゆきを解放した。
「そろそろ帰るか?日が暮れる…」
胸の中に、抱きしめられていたゆきは、少しぼーっとしていた。
「大丈夫か?帰れるか?」
「大丈夫です…」
そう言って慌てて義勇から体を離した。
屋敷の玄関に向かうと常駐の隠が、風呂敷を手に持っていた。
「ゆきさんこれ不死川様からです。おはぎだそうです。」