第86章 無一郎と美月の秘密【R18】
夕刻、ようやく蝶屋敷での手当てを終えた義勇が屋敷に戻ると、慌てた様子の隠が駆け寄ってきた。
「水柱様、ゆき様がまだ道場にいらっしゃいます。ひどくお疲れのようで眠っておられたので、そのままにしておりますが…」
義勇が静かに道場の扉を開けると、そこには板張りの床の真ん中で、小さく丸まって眠るゆきの姿があった。
暗くなりつつ道場はひっそりと静まり返り、ゆきの規則正しい寝息だけが響いていた…。
義勇は足音を殺して歩み寄り、その傍らに膝をついた。
無防備に投げ出された手首には、先日の稽古で自分が負わせてしまった痣が、青黒く浮かび上がっている。
隊服の裾から覗く太ももにも、痛々しい痕跡が残っていた…。
「…すまない…痛かっただろう…」
消え入るような声で呟き、義勇は、手の甲でそっとゆきの頬を撫でた。
自分の不甲斐なさと、ゆきを傷つけてしまった後悔が胸を締め付ける…。
だが、愛おしげに彼女を見つめていた義勇の瞳が、ふと険しくなった。はだけた襟元、白い首筋に、打ち身の痣とは明らかに、異なる赤い跡を見つけたからだった。
それは今朝、無一郎がつけた跡だった。
義勇の胸に、また嫉妬が再燃する…。
無一郎の屋敷でゆきが何をされていたのか、想像するだけで胸が張り裂けそうになる。
自分のつけた痣をあんなに悔いたはずなのに、時透がつけた跡はそれ以上に許しがたかった…腹が立った。
義勇は衝動に突き動かされ、顔を近づけた…。無一郎の残した跡を今すぐに消したかったから…その赤い跡の上へ、ゆっくりと自分の唇を寄せる。
最初は軽く触れた…そして次は、無一郎の跡を完全に消し去りたいと願うように、強く深く吸い付いた。
時透の跡など、消えてしまえばいい…見たくない…
眠るゆきが小さく身悶えをしたが、義勇は離れようとはしなかった…。
ゆきは、疲れもあって目を覚まさなかった。
義勇は、ゆきの首筋に新たにつけた自分の跡を見ると、少し心が落ちついた…。
そして深呼吸したあと、何もなかったかのようにゆきに声をかけた
「おい!起きろ、そろそろ時透の屋敷へ帰る時間だ。」
急な義勇の声にゆきは、驚き飛び起きる
「あれっ?いつの間に…寝ちゃったの?」