第86章 無一郎と美月の秘密【R18】
夕食までの時間に、中庭で一人、咲き誇る花を眺めていたゆきの心は、いまだに落ち着かずにいた。
先ほど無一郎に唇を寄せられた背中の痣が、熱を持って疼いている…。
湿布を貼り替えるという言葉を信じて身を委ねたのに…あんな事…。
無一郎の熱っぽい視線と、背筋を這った舌の生々しい感触が脳裏に焼き付いて離れない…
無一郎の行為に戸惑いながらも、どこか甘い痺れが背中に残っていた…。
そんな思考を振り払うように頭を振った時、上空から一羽の鴉が舞い降りてきた。
「義勇ノ、使イダ! 薬ヲ、受ケ取レ!」
バサバサと羽音を立てて降り立ったのは、義勇の鎹鴉、寛三郎だった。その首には、小さな風呂敷包みが丁寧に括り付けられていた。
「あれ? 寛三郎、どうしたの?」
ゆきが問いかけると、寛三郎は、言葉を紡いだ。
「義勇ガ、心配シテイル。コノ薬ヲ、使エ!」
解いた風呂敷の中には、質の良い鎮痛剤と、傷を癒やすための秘薬が入っていた。
会えばどこか冷たく突き離すのに…不器用ながらも義勇の優しさが伝わってきた。
ゆきは、自分のために無茶をした義勇の姿を思い出し、胸が締め付けられる…。
「あの…寛三郎。義勇さんの腕の怪我はどう? 私を庇ったせいで…木刀は、凄い勢いだったし…腕…酷いことになってたんじゃ…」
不安げに尋ねるゆきに、寛三郎はトポトポと首を傾げた後、力強く答えた。
「問題ナイ! 義勇ハ、強イ! オ前ノ心配ヲ、シテイル!」
その言葉に、ゆきはようやく「よかった…」と呟いた。
だけど、義勇からの贈り物を手にしているところを、もしも無一郎に見つかったら…。
「いい気しないよね…」
ゆきは、隊服のポケットに慌てて薬をしまい、風呂敷をもう一度寛三郎の首に括り付けた。
「寛三郎…義勇さんに、ありがとうと伝えて…」
その言葉を聞いた寛三郎は、うれしそうな表情を見せた。
「義勇ハいい子ナンジャ…アノ子ヲ分ッテオクレ…。オ前ガ好キナンジャヨ…本心ハオ前ガ好キナンジャ…口下手ナダケナンジャ」
そう言い残し空高く飛んでいった…。
「わかってる…いい人なのは…わかってるよ…だけど好きは違うと思うよ…もう私を好きじゃないと思う。ありがとう寛三郎…元気づけてくれて。」