第86章 無一郎と美月の秘密【R18】
屋敷の門を潜ると、そこには右腕に包帯を巻いた美月が、待ち構えていた。
「無一郎様、どこに行かれていたのですか…?」
「水柱と手合わせしていたんだ」
無一郎は淡々と答え、腕の中のゆきを降ろそうとはしない。
その様子を、美月は憎しみのこもった視線でゆきを見た。
「無一郎様…報告書を書きたいのですが、右腕が痛くて…」
少し甘えた声で訴える美月に、無一郎の瞳から温度が消える…。
無一郎はゆきを静かに廊下に降ろすと
「部屋で休んでいて。後で湿布を貼り替えに行くから」
とだけ告げ、半ば突き放すように美月の部屋へと向かった。
二人きりになった室内で、美月はここぞとばかりに距離を詰めようとする。
しかし、無一郎は美月に触れることさえしなかった…。
「報告書は僕が書いておく。用紙をもらいに来ただけだから」
「ま、待ってください…もう少し、一緒に…っ」
去り際の冷たい背中に、美月は必死に声を絞り出した。
無一郎が、面倒臭そうに振り返った。
「美月…何か勘違いしてない? 君と一緒にいて、どうなるっていうの?」
容赦のない言葉が美月の胸を突き刺す。
言葉を失った美月から、無一郎は事務的に用紙をひったくると、一度も振り返ることなく部屋を後にした。
一方、部屋に戻ったゆきの心は、静まり返っていた。
脳裏を離れないのは、立ち尽くしていた義勇の姿だ。
あの時の、義勇さんの顔…
自分を庇って折れた木刀で出来た腕の傷…。
滴り落ちる血…、勢いもあったから痛そうだった…。
大丈夫かな…痛くないかな?隠にきちんと手当てしてもらったのかな?ずっとずっと頭の中は、義勇でいっぱいだった。
「ごめんね、待たせて。…まだ、冨岡さんのことを考えてるの?」
振り返ると部屋の中には湿布薬を手にした、無一郎の姿があった。
「あっ、違う考えてないよ」
無一郎の声は美月へ向けたものとは対照的に、どこまでも甘く、優しかった…。
「湿布薬を、貼り替えてあげるよ…脱げる範囲で隊服を脱いでくれるかな?」
「あっ…じ、自分でするから大丈夫…」
断るゆきをよそに無一郎は、近づき隊服のボタンを外し始めた…
「じゃあ僕が全部してあげるから動かないで…」
断る事ができず、ゆっくりとゆきは隊服を脱がされていった…