第85章 霞柱邸〜時透無一郎【R強】
静まり返った部屋で、ゆきは一人、ぼーっと座り込んでいた。
戻ってこない無一郎を待つ時間は、ゆきの心をじわじわと不安にさせていく。
先ほど目にした光景…不器用ながらも献身的に美月を抱きかかえていった無一郎の姿が、脳裏に焼き付いて離れない…。
「私なんかより、美月さんの方が……」
共に戦場を駆け、実力も、立場も、無一郎くんに相応しいのは自分ではない…。そんなの分かりきっていた…私は最終選別は受けていない…何もできない弱い鬼殺隊…無一郎くんに助けられたオマケの命なんだよ…私は…
その時、急に襖が開く音がした。
ゆきは反射的に布団に潜り込み、寝た振りを装った。
しかし、柱である無一郎の鋭い眼を欺くことはできなかった…。
「何? 起きていたの?」
無一郎の静かな声に、ゆきは観念してゆっくりと目を開いた。
目の前に立つ無一郎は、風呂上がりなのか髪を湿らせ、寝間着姿だった。
「あれ?お風呂…行ってたの?」
「そうだよ」
短く返された言葉に、ゆきの胸がチクリと痛む。
美月さんを部屋へ連れて行った事は言わないんだ…
隠されたという事実に、無一郎との間に見えない壁ができたような気がした。
「あの…ゆき、寝る前に口づけだけしたい」
無一郎にせがまれ、ゆきは静かに目を閉じた。
重なる唇…
けれど、そのまま情熱に任せて押し倒された瞬間、まだ癒えぬ体に痛みが走った。
「いっ…た…」
「ごめん……つい……」
「ん…大丈夫…」
気まずい沈黙の中、無一郎はゆきを優しく腕の中に抱き寄せた。
「寝よっか」という無一郎の声は穏やかだが、結局、美月のことについては一言も触れなかった。
美月さんのこと…何も話してくれないんだね…部屋で何かあったんだね…きっと
「おやすみ、無一郎くん…」
「おやすみ…ゆき」
腕の中に大切そうに、つつみ込んでくる無一郎…けれどゆきは、色んな事が不安でもういっぱいいっぱいになっていた…。