第85章 霞柱邸〜時透無一郎【R強】
無一郎の部屋に足を踏み入れると、そこには既に隠の手によって整えられた寝床があった。
任務から戻った無一郎が、一刻も早くその疲れを癒せるようにという配慮が、ぴんと張られたシーツの白さから伝わってくる。
無一郎のいない部屋に、ゆきはそっと腰を下ろした。
静まり返った部屋に、時折風が障子を揺らす音だけが響く。
押し寄せる睡魔に耐えながら、うとうとと無一郎の帰りを待つゆきの視界に、ふと、部屋の隅に整然と並べられた紙飛行機が映った…。
「今もまだ、折っているんだ…」
思い出す…山賊に襲われたあと療養していた蝶屋敷で、無一郎くんは、怖がる私に配慮して部屋の端に椅子を置き紙飛行機を、よく作っていた事を…
ゆきはその一つを手に取り、無意識に空へと放ってみた。
しかし、紙飛行機が指を離れた瞬間、肩から指先にかけてズキッとした鋭い激痛が走った。
義勇の竹刀が容赦なく打ち込まれた場所が、熱を持って脈打っている。
寛三郎が届けてくれた湿布を貼ったものの、深くまで達した打撲の痛みは、湿布薬だけでは到底抑え込めるものではなかった。
「痛い…」
ゆきは、寛三郎が持ってきた袋の底を改めて確認してみた。
すると、湿布の他に小さな包みに入った鎮痛剤が入っていることに気がついた。
ゆきは縋るような思いでその薬を口に含み、水で流し込んだ。
薬が効き始めたのか、あるいは疲労が限界に達したのか…。
しばらくすると、痛みが遠のくのと引き換えに、強烈な眠気がゆきを襲った。
「少しだけ…無一郎くんが帰るまで…」
そう自分に言い聞かせゆきは、用意されていた寝床へと入っていた。
無一郎の香りが微かに残る布団の中で、ゆきは深い眠りに落ちていった。