第85章 霞柱邸〜時透無一郎【R強】
義勇が道場を去った後、ゆきは動揺を隠しきれずにいた。
叩かれた肩や背中が熱を持ち、ズキズキと脈打つ…。
何よりも、無一郎との情事を指摘された恥ずかしさと、義勇の怒りに触れた恐怖で、指先がどうしようもなく震えていた。
稽古を終え、重い足取りで屋敷を後にしたゆきを待っていたのは、身体中の痛みだった。
義勇の竹刀は、容赦なくゆきに打ち込まれていた。
隊服がスカートになったことで、剥き出しになった太ももには、痛々しい青痣が幾重にも浮かび上がっている。
一歩踏み出すごとに走る鋭い痛みに、ゆきは痛みを堪えた。
夕闇が迫る帰り道、よたよたと覚束ない足取りで歩いていると、頭上からカサカサと羽音が聞こえてきた…。
「カァーッ!……カカッ」
見上げると、そこには義勇の鎹鴉である寛三郎の姿があった。
年老いたそのクチバシには、何やら白い包みが挟まれている。
寛三郎はゆきの肩にふわりと降り立つと、それを差し出した。
「コレヲ使エ……。義勇ガ、渡シ忘レタト……」
それは、丁寧に包まれた湿布薬だった。
「済まない」とも「悪かった」とも言わぬ、不器用な義勇なりの謝罪だった。
厳しい言葉の裏に隠された、捨てきれない愛情…
「…ありがとうございます、寛三郎さん」
ゆきが礼を言うと、鴉は一言も発さず、ゆきに頬擦りした後、静かに空へと消えていった。
沢山湿布薬が入った白い包み…義勇の複雑な思いを裏付けるかのような重みだった。
ゆきはそれを胸元にぎゅっと抱きしめた…。
疼く痣の痛みさえ、今は義勇との繋がりを示すもののように感じられ、切なさが込み上げる…。
ようやく屋敷へと辿り着くと、門の前で隠がゆきを待っていた。
「おかえりなさいませ。無一郎様は、予定通り任務へ向かわれました」
無一郎も継子の美月も居ない静かな屋敷
ゆきは、お風呂で今日の稽古の様子を思い返していた…。
「今日の義勇さん手加減なかったな…」
ズキズキと竹刀で打たれた場所が疼く。
ゆきはお風呂からあがり寛三郎が届けてくれた湿布を手に取った…
貼り終えた時にふと、今朝の無一郎の言葉を思い出す…
「そうだ…無一郎くんの部屋で帰りを待たないと…」