第85章 霞柱邸〜時透無一郎【R強】
結局、ゆきは復縁の答えを出せないまま、無一郎の屋敷で世話になることになった。
義勇は納得がいかない様子だったが、宿舎での悪い噂からゆきを守るためには、今の自分には正当な理由が足りないことを痛感しているようで同意した。
ゆきの荷物は隠の手によって速やかに運ばれ、その日のうちに無一郎の屋敷へ移ることになった。
「…おかえり、ゆき」
無一郎は、あふれ出す喜びを隠そうともしなかった。
やっと、やっと自分の腕の中に、愛しい人が帰ってきた…自分の幼い誤解で君を手放してから今日まで長かった…。
無一郎が用意した部屋は、自分の部屋のすぐ隣…。
二つの部屋は薄い障子一枚で仕切られているだけで、実質的には同じ空間も同然だった。
「少しお世話になるだけだから、落ち着いたら宿舎に戻るから…」
そう告げるゆきの背後で、無一郎はそっと障子を閉めた。
「少しの間なんて言わないで。ずっとここにいればいいんだ。君を悲しませる全てから僕が守ってあげるから…」
無一郎はゆきを優しく抱き寄せ、甘く耳元で囁いた。
もう決して離さないという甘いけど力強い声に聞こえた。
しかし、そんな甘い空気は、屋敷で共に生活する美月によって切り裂かれた。
美月は、ゆきが無一郎の隣室を与えられたことが面白くなくてたまらず、苛立ちを隠そうとしなかった。
部屋から出て庭を眺めていたゆきに美月が声をかけた
「もしかして無一郎様の婚約者に本当に戻れると思っているの?」
「美月さん…」
「柱を二人も手玉に取るなんて、大層な身分ね。でも勘違いしないで。無一郎様はただ、責任感で動いているだけ婚約者に戻れると思わないでね。」
冷たく突き刺さる言葉。ゆきは言い返すこともできず、ただ俯いた。
二人の元に無一郎が現れた
「あれ?ゆきどうしたの下向いて」
「あっ!無一郎様お話してただけです。」
「疲れちゃった?今日はもう休む?」
無一郎くんは、どこまでも私に優しくしてくれる…。
美月さんは、無一郎くんを好きな事は知っている…。
私は、どうしたらいいの…?自分の居るべき場所がわからないよ…
私は結局余り物じゃない?
義勇さんには、しのぶさんが…
無一郎くんには、美月さんがいるもの…