第74章 継子美月の罠〜時透無一郎 冨岡義勇 【R強】
蝶屋敷での出来事から一週間経とうとしていた。
ゆきは、義勇が自分に向けている想いに少しずつ気づいてきていた。
しのぶさんとの仲もどうやら違うような気もしていた。
なぜなら…
「ゆき…失礼する」
寝る前に必ず義勇は、ゆきの部屋に来ていたのだった。
「ん?義勇さん?私もう寝るとこでした。どうしましたか?」
義勇は開けたふすまの敷居に立ったまま、すぐには部屋に入ろうとしない。
その表情は相変わらず淡々としていて、何を考えているのか読み取りにくいものだが、その目からはどこか迷子のような、心細さが伝わってくる。
「いや。顔を見に来ただけだ。よく眠れているかと思ってな」
そう言って、義勇はいつも静かに部屋の中まで入ってくる。
義勇はゆきから少し離れた場所に腰を下ろすと、膝の上に置いた拳をぎゅっと握りしめた。
普段の任務で見せる冷静さはなく、今の義勇は一人の不器用な男そのものだった。
そしてあの日から毎日これを伝えに来る…
「胡蝶とは…何でもない。あいつはただの同僚だ。お前が気に病むようなことは、何一つない」
聞いてもいないのにそう呟いた義勇の声は、いつもうわずっている。
「俺は…お前が、明日も明後日も、俺の目の届くところで笑っていてくれれば、それでいい」
義勇は立ち上がると、布団に座るゆきのすぐそばまで歩み寄った。
そして、大きな手がためらいがちに、けれど愛おしそうにゆきの髪に触れる。
「お前が眠りにつくのを見届けないと、どうにも胸が騒いで落ち着かない。迷惑だろうか」
これを毎日続けてきていた…。
「義勇さん今日も任務でお疲れだと思うので私が眠るまで見なくても大丈夫ですよ」
ゆきが、ニコッとした笑顔を向けている。
「わかった…また明日。おやすみ」
「おやすみなさい」
義勇が、名残惜しそうな表情で部屋を後にした。
自分の気持ちがよくわからないのに義勇さんとずるずるした関係を続けるのはいけない…。
ゆきは、心にそう決めていた。
義勇は、近くに居るのに触れれないもどかしさに毎晩気が狂いそうだった…。
月が明るく縁側を照らす…
だが、俺の心は全然明るくならない…ゆき…
もう俺の事は、想っていないのか?