第70章 練習の終わり〜冨岡義勇 不死川実弥
義勇さんが去った後の部屋で、私は火照った身体を落ち着かせるように、深呼吸した。
奪われた唇に触れ呼吸を整えるが…胸の鼓動がうるさく響く…。
窓の外からアヲイさんや、なほちゃんたちの賑やかな声が近づいて聞こえて来た。
アヲイさんが中を覗き声を掛けてくる。
「ゆきさん、顔色が良くなりましたね!しっかり食べて元気を出さないとダメですよ」
アヲイさんが甲斐甲斐しくおにぎりを窓から差し入れてくれた。
「こちらからすみません。あっ!そう言えば時透様が探していましたよ。」
義勇さんが、さっき私がアヲイさんと一緒だと言ったからだ…
「あら、皆さん楽しそうですね」
アヲイさんの背後に、しのぶさんがいつもの微笑んだ顔で立っていた。
アヲイさんたちが一礼して仕事に戻る中、しのぶさんは窓に歩み寄り、中をのぞき込んできた。
「ゆきさん。富岡さんとの秘密の口付けは、堪能できましたか?」
その言葉に、私は心臓が止まりそうになった。
「えっ…?」
「時透君の目の前で隠れてそのベッドで…冨岡さんと…口付け…本当にあなたって人は淫らなですね。」
しのぶさんの瞳がとても怖かった。
「彼が留守の間に、他の男性に身を委ね、あまつさえそれを癒やしだと思い込む…。それは純粋な時透君に対する、残酷な裏切りだという自覚はありますか?」
それだけ言ってアヲイさん達の元へ去って行った。
さっきまでの穏やかな日差しが、今は自分を責め立てる光のように感じられる。
不意打ちだと言えども口付けをしたのは事実…
無一郎くんの真っ直ぐな瞳を思い出すたび、自分の裏切り行為が胸を締め付ける…。
無一郎くんは私を信じ、守ろうとしてくれているのに、私は彼がいない隙に義勇さんに乱されている…。
「ここに居たんだ…探したよ…。」
無一郎くんの優しい声が、部屋を包み込む…。
照れ笑いしながら、無一郎くんは扉の前に立っていた。
「あっ…お、おかえりなさい。一日早かったの?」
「うん。君に会いたくて休まずに鬼の頸を切ったよ」
日だまりのような綺麗な笑顔…こんな汚れた私を見つめてくれる…。
「隣に行ってもいい?」
「うん」
無一郎は、一歩一歩距離を詰めてくる…隣で腰を降ろすと。
「ただいま…ゆき…」