第63章 冨岡義勇の葛藤〜冨岡義勇
無一郎が自分の屋敷の門をくぐった時、違和感は確信に変わった。
なんだかおかしい…。冨岡さん?もしかして来てたの?
ふすまを開けると、そこには手合わせで傷ついた身体を横たえ、荒い息をつくゆきの姿があった。
「…冨岡さん。何をしてるの、僕の屋敷で」
無一郎の視線の先、つい数秒前までそこにあった「誰かの体温」が、空気の揺らぎとして残っていた。
義勇は、無一郎が帰宅する直前に、逃げるように去ったのだ。
無一郎はゆきの枕元に歩み寄り、冷ややかな目で見下ろした。
布団の端が乱れ、ゆきの口元は滴り落ちた水で濡れている。
そして、その唇はわずかに赤く腫れていた。
「わざわざ運んできて…看病までしてくれたんだ。冨岡さんが」
無一郎はゆっくりと腰を下ろし、ゆきの頬に触れた。 指先に伝わるのは、ゆき自身の熱と——自分ではない男の、湿った感触。
「むい、ちろう……くん…私…負けちゃった…」
朦朧とした意識の中で、ゆきが無一郎の手を握り返す。
しのぶとの手合わせで完敗し、ゆきは体も心も折れかかっている。
「胡蝶さん手加減なさすぎだよ…酷い。ゆきさっき冨岡さんに何をされたか覚えてる?」
無一郎の指が、彼女の唇を撫でた。
義勇が水を流し込み、執着を刻みつけたその場所を、力任せに 拭い去る…
「冨岡さん、自分の立場を分かってないみたいだ。諦めるために君を傷つけて突き放したくせに、僕の屋敷に上がり込んで、勝手に君に触れて」
無一郎の瞳から、光が消える。
義勇がゆきに抱いている「愛情」も、ゆきが義勇に対して抱いている「恋心」も、無一郎はすべて気づいている。
「ねえ、ゆき。冨岡さんが飲ませてくれた水、美味しかった? 口移しだよね?」
無一郎はゆきの細い首筋に手をかけ、引き寄せた。
「む、無一郎くん…義勇さんが何で出てくるの?」
「えっ?」
「私はずっと無一郎くんと居たのに…飲ませてくれたのも無一郎くんだよ…」
無一郎はゆっくりと顔を近づけ、ゆきの額に自分の額を押し当てた。
「そうだね。ごめん、僕がどうかしてた。ずっと側にいたのに、忘れるわけないよね」
無一郎はゆきの話に合わして自分が側にいたことにした