第105章 無一郎と美月の仲〜時透無一郎
甘露寺さんが任務から戻ってきて数日後、無一郎の鎹鴉が手紙を携えて舞い降りた。
「ゆきちゃん…無一郎くんが、そろそろ帰って来いって言ってるわ…。」
「そうですか…」
気遣わしげな眼差しを向ける甘露寺さんに、ゆきの胸がキュッと締め付けられる。
「どうする? 気持ちがまだ追いつかないなら、断りの手紙を出しましょうか?うちは、全然いつまでも居てもらって構わないからね。」
その優しい提案に、ゆきは深く息を吐き出し、静かに首を横に振った。
これ以上、甘露寺さんに甘えて迷惑をかけるわけにはいかない。
「…いいえ、帰ります。お世話になりました」
「そう…明日、無一郎くんがお迎えに、来るそうよ」
その夜、ゆきは布団に入ってもなかなか寝付けずにいた。
頭をよぎるのは、あの日の刀鍛冶の里での出来事…。
冷ややかな無一郎の視線と、頬に走った痛いほどの衝撃…。
ゆきを、信じてくれず美月の言葉を信じた無一郎…
そして、美月から叩きつけるように投げつけられた簪の落ちる音。
頬を伝う血の感触…
美月に嫌われていることは、嫌というほど理解していた。
けれどそれ以上に、冷たさを増した二人と再び向き合うことが、ゆきにはたまらなく怖かったのだった。
ふと頭上に、いつかのぬくもりが蘇る。
耳元に残る、静かでまっすぐなあの声…。
『嫌なこと、悲しい事あれば必ず来い…』
窓の外を仰ぎ見れば、夜風がかすかに木々を揺らしている。
川辺の木下で、義勇さんは今も自分を待っているのだろうか?
縋ってしまいたい誘惑と、流されてはいけないと言う心の狭間で、ゆきは押し潰されそうな胸を抱えたまま、ただぎゅっと目を閉じて夜が明けるのを待った。