第104章 護衛〜冨岡義勇【R強】
その日の夜は何事もなく、しん…と静まり返ったまま過ぎていった。
義勇が部屋を訪ねてくることもなかった。
翌朝、食堂へ向かっていると、廊下まで明るい声が響いてきた。
甘露寺が任務という名の伊黒との保養から帰ってきたのだと、すぐに分かった。
「冨岡さん! ゆきちゃんとちゃんとお話しできた?」
不意に出た自分の名に、ゆきの足がピタリと止まる。
「…あぁ…多少は」
「多少? 何か進展でもあったの?」
「……」
「その反応…なかったのね…」
甘露寺の声が、廊下まで丸聞こえだった。
「やっぱりゆきちゃんは、無一郎くんに一途なのかしら?」
「そんな事はない!!」
義勇が突如張り上げた大声に、ゆきの身体もビクッと跳ね上がる。
「俺は…諦めてはいない。甘露寺、今回この屋敷の護衛をさせてもらい感謝している。」
「う、うん…」
「俺は、失礼する」
扉が開く音と同時に廊下へ出てきた義勇と、ゆきは正面から鉢合わせてしまった。
交差する視線
気まずさに息をのむゆきに対し、義勇はどこか吹っ切れたような、まっすぐな瞳を向けていた。
すれ違いざま、義勇の手がそっと伸びてきて、ゆきの頭を愛おしそうにポンポンと優しく撫でた。
そして、他の誰にも聞こえないほどの低い声で、義勇は、ゆきの耳元に囁いた。
「また、任務のない夜は川辺の木下にいる。何かあったらいつでも会いに来い。…待っている」
頭上に残る温もりと、耳元に残る甘い余韻。
去っていく義勇に、慌てて振り向き思わず叫んだ。
「も、もう行かないので待たないでください!」
ゆきが、そう伝えると義勇はゆっくり振り返った。
そして…
「嫌なこと、悲しい事あれば必ず来い…。」
そうゆきに、言い残すとゆっくりと廊下を歩いて行ってしまった。