第19章 揺れる無一郎の心~時透無一郎 冨岡義勇 不死川実弥
足が動かなかった。『早く行けば』の言葉が胸に刺さった。
「冨岡さんに慰めてもらうといいよ、あっ何なら今日泊めてもらったら?」
冷たい表情で淡々と言われた。まるで昔のまだ二人が何もなかった頃の無一郎に戻ったようだった。
「師範~早く紙飛行機の続き…あっゆき御姉様?えっ泣いてる?」
凛が、ゆきに近づきわざとらしく慰めてきた。
「師範と喧嘩ですか?水柱様に言いつけるんですか?」
ゆきは、涙をいっぱい溜めながら「そんな、何も言わないわ!」と言い返した。
ゆきの息が早く浅くなり過呼吸になりつつあった。
胸をぎゅっと抑えながらそのまま走って出ていった。
「うっうっ…」
泣きながら走った。でも泣き顔を義勇に見られたくないから一生懸命泣き止もうと努力した。
あと屋敷まで少しの所で涙を止めた。何事もなかったかのように義勇の屋敷に入った。
義勇はもう道場で座っていた。
隣に座り稽古の支度をはじめた。
「昨日は、あれから無事時透と帰れたんだな」
「はい」
「今日は、水の呼吸の息の整え方を、まあ俺は柱ではないがお前には色々教えよ…どうした?何かあったのか?」
ゆきは、何でそんな事がわかるのか不思議だった。
「何もないですよ」
「嘘を付け。目が腫れている」
「ね、寝不足です。昨日戻ったのも遅かったし」
そのまま義勇は何も聞かずに稽古をはじめた。夕方になり今日は、警備はなかったので帰れる事になった。
帰り支度をしているゆきの元に義勇が来た。
「今日は百合が実家に帰っていて居ないんだ…」
ゆきは、びくっとした。言われてみたら朝から百合さんの姿を見ていなかった。
義勇がすぐ近くに迫ってきているのに気付いた。
「や、やめてください」
「時透の所に帰りたくないなら今日居てもいいぞ」
「何言ってるんですか?帰ります」
道場の壁際まで攻められた。
「今日は何もしない月のものもきているし」
義勇に自分の体の事を把握されているのが堪らなく恥ずかしかった。
頬に手で触れてきた。優しい青い目で見つめてくる。堪らなくすがりたい衝動に襲われた。
だが、ゆきは振りほどき義勇の屋敷を後にした。