第103章 川辺の再会〜冨岡義勇【R強強】
義勇の重みから解放され、ようやく冷たい秋の空気がゆきの肺に流れ込んできた。
どれほどの時間が経ったのだろう。先ほどまで、義勇はゆきを組み敷いたまま、幾度も髪を撫で、傷ついた頬に何度も口づけを落としていた。
時にはその熱い指先で、痺れたように震えるゆきの唇をなぞり、その都度ゆきの思考は真っ白に染め上げられた…。
「日が暮れてきたな…そろそろ、帰ろうか」
低く落ち着いた義勇の声に、ゆきはハッと我に返る。
流されそうになっていた心を必死に繋ぎ止め、義勇と目を合わせないようにしながら、慌てて身体を起こした。
地面の枯葉がカサリと切ない音を立てる。
衣服の乱れを直すゆきの指先は、まだ自分のものとは思えないほど小刻みに震えていた。
無一郎への罪悪感と、義勇の熱に侵された身体の火照りが、胸の奥で複雑に絡み合う。
気まずい沈黙を破ろうと、ゆきはうつむいたまま消え入りそうな声で切り出した。
「あ、あの…今日のことは…」
無かったことにしてほしい。
そう告げようとした瞬間、ゆきの言葉は再び遮られた。
不意に影が差したかと思うと、義勇が至近距離から、ゆきの唇にそっと自らの唇を重ねてきたのだ。
驚きに言葉を失い、目を見開くゆき
義勇はゆっくりと顔を離すと、どこか悪戯っぽく、囁いた。
「わかっている、内緒だ。…二人だけの、秘密だ」
その言葉が鼓膜を揺らした瞬間、ゆきの脳裏に鮮烈な記憶が蘇る。
これ…ずっと前にも、同じような事があった…
秘密…
それ以上その場に留まるのが恐ろしくなり、ゆきは地面に置いてあった買い物の袋を慌てて両手で掴み取った。
「失礼します…!」
逃げるように軽く会釈をすると、ゆきは一度も振り返ることなく、小道を足早に去っていった。
乱れる足音が、遠ざかっていく…。
赤く染まった夕暮れのなか、義勇はその小さくなっていくゆきの後ろ姿を、ただじっと、静かに見つめ続けていた。