第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
「…あの山の麓は、鬼の情報が絶えない。
その度に誰かに行ってもらっているけれど、何しろここからは遠いからね。行って帰ってくるまでの時間を考えると…」
お館様は俺の目を見て言った。
「麓の町に、しばらく留まってくれる隊士がいるとありがたいかな。」
「…っ……」
「義勇…正式に任務を言い渡す。3つ向こうの山の麓の町に滞在し、鬼を狩るように。」
「…御意。しかしお館様…
柱がこのように私的な命を受けてもよろしいのでしょうか…?」
「ふふっ…そうしなくても義勇は任務後に毎日彼女の所に寄るのだろう?だったらその辺りを任せた方が効率がいい。ただ、それだけだよ。」
「…ありがとうございます。」
お館様の計らいで、俺はしばらく雫と同じ藤の花の家に世話になることになった。荷物をまとめると、すぐに雫のいる町に向かった。
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『………義…勇……様…?』
「起きたか?」
『私……ここは………?』
天井や部屋の周り、俺の顔を忙しなく見る雫。
「…気分はどうだ?」
コクリと頷くと
『………義勇様に…またお会いできるなんて…
夢みたいです…』
恥ずかしそうにポロポロと涙を流しながらそう言う雫を見て、胸が張り裂けそうになった。
「…すまなかった。気づけなくて…」
『…っ……』
雫は驚いたように目を見開き、悲しそうにゆっくりと首を振った。
『…ご存知なのですね…』
「…すまない…医者から聞いた。」
沈黙が続く。
こんな時、俺に宇髄や甘露寺のように会話で人を和ませる能力があったらと思う。
何を言ったら…
考えていると、雫が小さく口を開いた。
『私……汚い…ですよね…』
「…っ…そんなわけないだろうっ。」
恐らく、今まで雫に聞かせたことのない言葉の音量だったのだろう。
雫はビクっと体を震わせると、俺を見た。
「すまない…怖がらせた…」
すまないと謝ってばかりで気の利いた言葉の一つも出てこない自分を恥じた。
雫は首を振り、力なく笑った。
『嬉しいです…』
あぁ…やはり…
本当の手遅れになる前にこの町に来てよかった。
心から、お館様に感謝した。