第1章 群青色の恋(冨岡義勇)
ひどく衰弱していた雫の食事は重湯から始まり、粥になり、徐々に普通の食事に戻っていった。
普通食になってからの回復は早く、医者にも行動の制限はないと言われた時、改めて深く安堵した。
俺も藤の花の家で世話になっていた為、女将と3人で囲んで食事をとる事も少なくなかった。
ある日の昼餉の時間…
『あの…女将さん、私に何か手伝わせていただけませんか?』
「……どうしたの?洗濯、食事の支度、掃除。今だって十分やってくれているじゃない。」
『…深夜に訪れる方々のお世話やお手伝いを…させていただきたいのです。』
「…っ……」
流石に気づいていたか。
雫が藤の花の家に来てから寝泊まりした隊士は今のところいないが、深夜に来て女将が食事を提供したり、軽い傷の手当てをしたりはしていたことがあった。
寝ていたと思っていたが…
『夜更けに誰が来たのだろうと…こっそり見てしまった事があったのです。悪趣味な事をしてしまい申し訳ありません。
その方々は義勇様と…同じ服をお召しになっていた…
義勇様は…本当に愛刀家なのですか?』
俺と女将は顔を見合わせた。
流石にこれ以上は隠せないと判断し、話し始めようとした所、女将がニッコリと微笑み、頷いた。
「では…頼む。」
祖母ほどの歳の女将の方が、鬼殺隊の歴史や鬼について詳しいだろう、と思った。
案の定、女将はとても上手に雫に説明をしてくれた。
それから…
「雫ちゃん、冨岡様はね、その鬼殺隊の中のトップ、柱として活躍してらっしゃるのよ。」
女将が俺の事を褒め始めると、雫がパッと俺を見た。
その目はキラキラと輝いており、どうにも居心地が悪かった。
俺は元来、褒められるのに慣れていない。
「雫ちゃんはどうして手伝いたい、と思ってくれたの?」
モジモジしながら雫は口を開いた。
『今…私がしていることは最低限の事です…
ここでの女将さんや義勇様との生活が…
本当に幸せで…勿体ないくらい幸せで…
私をずっと……ここに置いて頂きたいのです。
私にできる事は、いえ…できない事もできるように訓練して、頑張ります。
どうかお願いします、ずっとここに…置いてください。』
手を重ね、深々とお辞儀をする雫。