第3章 空色の恋(時透無一郎)
「なぜそこまでの気持ちがありながら…
雫に何も言わない?」
「僕も…自分の気持ちに気づいたのは最近で…
雫に会えなくなるなんて考えなかったし、ましてや冨岡さんの継ぐ子だなんて…
雫は元気にしていますか?
怪我はしていませんか?
相変わらず無駄に稽古してません?
育ての話ばかりするでしょう?」
矢継ぎ早に言う僕を優しい表情で見つめる冨岡さん。
「自分で聞いたらどうだ。」
冨岡さんは立ち上がって草を払うと、歩き出した。
「雫にっ…」
冨岡さんに向かって叫んだ。
「鴉を飛ばしていいですか?」
ふっ、と笑って冨岡さんは頷いた。
自分も好きなのに、僕の意思を尊重してくれた…?
いや…
雫の意思を尊重しようとしてくれたんだ。
話のわかる人でよかったと思った。
そして…
雫にきちんと話さなければと思った。
もう泣かせたくないから。
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「銀子…頼んだよ。手紙捨てたら、もう撫でないから。」
ヤメトキナ!ナンデソンナコトスルノヨ!と騒いでいた銀子は、ようやく手紙をつけて飛んでいった。
それから2日して…
雫が屋敷に来てくれた。
「無一郎…」
赤い顔をしてモジモジする雫。
相変わらず隊服の裾が少し捲れている。
「ふっ…子供なの?
一体いつになったら雫は正しく隊服を着られるようになるのかな…」
雫の裾を真っ直ぐにすると言った。
「稽古する…?」
パァっと明るい表情になる雫。
『するっ…』
2人で木刀を持ち、庭に出た。
『私ね…強くなったよ。』
「うん…そうだろうね。
構え方に全然隙がない…いい構えだ。」
元々君は強かったもんね。
『じゃあ…行くねっ…』
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「…本当に驚いたよ。」
『ふふっ…師範にいつも、みっちり稽古つけてもらってるから。』
「…………」
やっぱり面白くないなぁ…
「雫…ちょっと話そう?」
『…?うん』
そのまま部屋に招き入れてしまったら、また前回と同じだ。
同じ轍は踏まない。
2人で縁側に座ると、隠がお茶を持ってきてくれた。