第2章 若草色の恋(不死川実弥)
「だーっ、もう何なんだアイツは…
わからんすぎて苛つくっ………」
頭をガシガシと掻き、冷蔵庫に入っているペットボトルのお茶をグビグビと流し込む。
「不死川君、どうしたの?荒れてるわね。
生徒が何かやった?」
ふふっ、と微笑みながら話しかけてくる良い香りの女。
「胡蝶先生…いや、何でも。」
密かに好意を寄せている人。絶対にこんな馬鹿げた事言いたくねぇ。
「そう?あまり無理しないで息抜きしながら、やりましょうね。」
ニコリと微笑むと、チョコレートを2つ、テーブルに置いて行ってしまった。
「はぁ…気ぃ効く。アイツとは大違いだわ…」
どうせ今日も残って風を感じてくんだろうし、その時に聞いてみっか。
んで…もしマジで俺が好きとか言い出したら…
きちんと断りゃいい。
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案の定、今日も居残る相澤に、俺は話しかけた。
「……相澤」
『はい。』
「たまたまなんだけどよぉ…今日その…
お前が告白されてんの聞いちまってな、それでお前が俺を…とか言ってんの聞こえたんだわ。わりぃ…」
『ぇ…………』
ガタン、と椅子が転がる。
『えっ……えっ……そんな…聞い………』
みるみるうちに顔が赤くなり、涙が溜まる。
おいおい、マジなのかよ…
断りづらいわ…
『…っ……帰りますっ…』
「えっ…オイ……相澤っ………」
相澤は全速力で教室から飛び出していった。
「相澤っ……」
廊下を覗くと、既にいなくなっていた。
「は…?足はやっ。風かよ…」
直球すぎたのだろうか…けど他の生徒にあんな事言う奴はマジで迷惑だ。
相澤の顔が思い出される。
泣きそうだったな…アイツ。
そう言えばあの時も、アイツは俺を見て何か言いながらボロボロ泣いていた。あんな衝撃的な事、なぜ忘れてた…?
相澤の代の入学式、式の後1年の生徒達はゾロゾロと慣れない教室までの道を歩いていた。
俺は当時2年の担任。
遅れて教師連中と喋りながら職員室に向かっていると、相澤が俺を見つけ、列から飛び出して何かを呟きながら泣いたんだ。
透き通った陶器のような白い肌に薄緑の瞳。顔つきは日本人らしさも残る、人形のように美しい生徒が涙を流す様に、思わず誰もが足を止めた。