第7章 当主
何だろう……
すごく心地の良い風を感じる……。
それに、花のいい香りが鼻腔をくすぐる…。
穏やかな自然を感じ取った私は
徐々に意識が浮上してきて、閉じていた瞼を開けた。
『……あれ…私……
どうしてたんだっけ……?』
視界に入ってきたのは、見た事のない天井。
布団の上に横になっているみたいだけど
蝶屋敷の布団とは少し感触が違う…。
『ここ……何処なんだろ……』
寝起き状態の私は、ぼーっと天井を見つめながら自分の状況を考えた。
頭が全く働かず、体も上手く動かせなくて…
ひたすら天井を見つめていると
襖が開く音が聞こえて、顔だけを横に向けると
男性と女性が2人で部屋に入ってきた。
「良かった、目が覚めたみたいだね。」
『あ…はい…。えっ、と……、ッ!!!』
確実に初対面であるこの2人に
とりあえず挨拶をしようと布団から体を起こそうとすると、太腿と肩に痛みが走り、私は顔を歪めた。
「様、傷に触りますので
無理はなさらないで下さい…。」
『っ、はい…。すみません…。』
「君は2日間も眠っていたんだよ。
相当体に負担をかけようだから
無理をして起き上がらなくていいんだ。」
…え、私、そんなに寝てたの?
他所様の家で…?
え、え、めっちゃ失礼な事しちゃってるじゃん!!
『あ、あの……
私の手当てをして下さったんですよね…?
それなのに2日間も寝てたなんて…
ご迷惑をお掛けしました…』
とりあえず、まずは謝罪を口にすると
2人は優しく微笑み返してくれて、私が寝転がっている布団の側に正座をして腰を下ろしていた。
「謝る必要はないよ。
怪我が治るまで、この屋敷でゆっくり療養するんだ。」
『あ、ありがとうございます…。
でも…
貴方の方こそ休まなくて大丈夫ですか…?
病気を…患っていますよね…?』
その男性の顔の上半分は
見た事がない症状の焼け爛れたような痕があって…
女性に手を引かれながら私に近づいて来たから
この人はきっと……視力を病魔に奪われたんだ…。