第8章 死神と水の呼吸
翌朝柊は義勇よりも早くに目覚めた。
昨夜ともに寝た義勇はまだ眠りについてる。
いつも義勇は朝早くに起きている。深い眠りにつくことは滅多にないのだろう。折角だからゆっくり寝かせてあげようと柊は起こさないようにゆっくりと布団から抜け出す。
身支度を済ませ早朝の日課になった町の見回りを兼ねて走りに屋敷を出る。
(今日も異常はなかった。)
屋敷に戻ると通いの女中さんが朝食の用意を済ませ洗濯を干していた。
「リーン様おはようございます。」
「弥生殿、おはよう。いつもありがとう。義勇は起きたか?」
彼女は数年前に家族を鬼に殺された遺族で普段は詰め所で住み込みとして働いていたが、柊が水柱邸に滞在する間、通いで来てくれてる方だ。一家の大黒柱である夫を失い、住む家もない中、御館様の計らいで仕事を紹介してもらい生き残った息子とともに生きる希望を手にした1人だ。
「冨岡様なら先ほどお目覚めになられて、朝食をご用意しましたので先に召し上がってるはずですよ。リーン様の分もすぐにご用意しますね。」
そう言って洗濯中の手を止めようとするので
「いや、それくらい自分でできる。弥生殿はそのまま作業を続けてくれ。ありがとう。」
台所へ向かい、お膳に用意された朝食を持ち居間へ入ると義勇が座っていた。
「義勇、よく眠れたようだな。」
「……あぁ。」
ふと義勇の膳を見ると手をつけていない。
「なんだ?食べないのか?」
「…柊を待っていた。」
柊は一瞬キョトンとしてふふっと笑い
「そうか、なら一緒に食べよう。」
義勇は協調性というものが皆無だと思っていた柊。
いつも食事は1人で勝手に食べていたし、風呂も入りたい時に入るから柊が入浴中に鉢合わせる事もしばしばある。出かける時も声をかけずに行くものだからあやめがしょっちゅう飛び回っている。
そんな義勇が『一緒に』という言葉を使う、ましてや柊が来るのをお膳の前で座って待っているのを見て笑みが溢れる。