第8章 死神と水の呼吸
義勇side
「義勇、話を聞いてくれて、信じてありがとう。3日後にまた迎えに来てくれ。」
蝶屋敷で胡蝶と一緒に柊の置かれている状況を聞いたあと、診察をするからと追い出された。
だが、柊は笑顔で次の約束を取り次いでくれた。
(…柊。いい友人になれた。)
ムフフと怪しい笑みを浮かべながら自宅へと帰路に着く。
今までは1人だったから特に不自由はなく、炊事洗濯掃除は溜まってきたら日雇いで家政婦を雇っていた。
だが女性である柊を家に上げるとなるとそうはいかない。掃除は勿論、自炊なんてしたことがない。台所の器具は装備されているが使ったことはない。
(通いで家政婦を雇おう。)
翌日には煉獄が言っていた通り、柊の荷物を隠が運んできた。竹籠に二つ分。女性にしては随分少ない。
姉さんが嫁入りに行くために用意してた荷物は馬車に乗り切れないほどだったのに。
柊の部屋にと用意したがずっと使ってなかったので埃が溜まっていた。隠(後藤と名乗っていた)とともに部屋に荷物を置こうとしたら
「本当にこの部屋を女性に使わせるつもりですか?」
と冷ややかな目で見てきたので慌てて掃除をする。
掃除ついでに荷物の荷解きもしようと籠を開けようとすれば
「っっ!!ちょっとちょっと!!何してんですかー?!!」
「??何って荷物を整理してやろうと。きて早々荷解きから始めるより事前にしといたほうが手間が省けるだろ?」
「相手は女性ですよね?!勝手に荷物開けるとかどこの非常識ですか!ただでさえ未婚の男女が一緒に住むんですよ!マナー!!距離!!これ大事!!」
「…すまん。」
ものすごい剣幕で怒られてしまった。そうか、女性の荷物は勝手に触ってはいけなかったのか。知らなかった。
掃除を手伝ってくれた後藤に礼を言うと彼は颯爽と帰って行った。
自室に戻ると棚に飾るかんざしと狐のお面を見る。
(姉さん、錆兎。俺が他人と一緒に暮らすなんて…上手くやれるだろうか…。社交的な錆兎なら呼吸の指導も共同生活も問題なくこなせるのだろうな…。)
義勇は自室を後にし、日が暮れる前にと町へ向かい馴染みの定食屋へと足を運ぶ。