第16章 (短編)呉服屋での話
煉獄家へ引っ越しが決まり、翌日には千寿郎と町へ買い物へと出た。
どうやら贔屓にしてる呉服屋があるらしく、煉獄家の着物はほとんどがそこから購入したものらしい。
町の大通りに構える店はそれは立派なもので、この世界に疎い柊でさえその店が古くからの老舗だとわかるくらいだった。
「ごめんください。」暖簾をくぐると千寿郎が店の奥に声をかける。
「おや、煉獄家の千君じゃないか。今日は何をお探しで?」
奥から出てきたのは恰幅のいい優しそうなおじさまで、身なりもきっちりした店の主人だった。
「今日はこの方に合う着物を数着見繕って欲しくて。」
ふと千寿郎の奥にいる人物に目をやると主人は目を輝かす。
「おやおやおやおや。そうかいそうかい。ついに杏寿郎くんにも良い人が?」
ニコニコと笑みを浮かべる主人に千寿郎は慌てて耳打ちをする。
「だめです!お2人はまだそう言う関係ではありません!ちょっとずつ距離を深めてる最中なのです!周りが冷やかすと拗れてしまいますから!僕としては姉上にと考えていますけどね!」
そう言うと主人も「そう言う事なら喜んで協力しますよ。」と笑顔で頷く。
「失礼しました。お嬢さんは髪も肌も白いので淡い色よりもメリハリのある濃い色の方がお似合いですねぇ。おや?よく見ると瞳も藍色でお美しい。瞳の色に合わせた帯もいいですねぇ。」
次々と主人が帯や反物を広げていく。
「千寿郎、袴だけを買いに来たのではないのか?」
「何言ってるんですか、せっかくなのですから!」
何やら力が入ってる千寿郎を尻目に任せるよと店の中を見物していく。
千寿郎は約束通り手持ちの瑠火の着物にも合う女性用の行灯袴も注文し、季節問わず着ることのできる薄紫色の雪輪柄の着物を1着だけ注文した。
千寿郎が生地を選んでいる間柊は女将から体の寸法を計られていた。
「寸法までするのか?千寿郎、既存のものでいいんだぞ?」
「何言ってるんですか!柊さんに既製品なんて似合うわけないでしょう。」
「そうですよ。それにお嬢さんは平均より背がありますからね。ツンツルテンになりたくなかったら、はい、腕広げてねー。」
女将が手際よく採寸していく。