第14章 死神と憂鬱
山に赤い紅葉が色づき始めた頃、柊は義勇から水の呼吸を完全に習得できたと認めてもらい、煉獄家へと戻ることになった。
その際義勇から「ずっと一緒に住んでもいいんだぞ」と言われたが、「杏寿郎の方がいい」と一蹴され、泣く泣く柊を手放した話は天元を大いに笑わせたようだ。
水の呼吸を取得した後も自主鍛錬は怠らず、毎日杏寿郎や槙寿朗と手合わせを欠かさずに行っている。
柊が水柱邸に赴いてる間、夏頃から煉獄家では道場を開放し、隊士たちがいつでも稽古ができるようになっていた。
その隊士たちに稽古をつけようと声を上げたのがあの酒浸りだった槙寿朗だというのだから、御館様もそれには大変驚いたそうだ。
柊が戻った日も隊士が出入りしていて、久しぶりに杏寿郎に会える喜びを噛み締める間もなく、それどころか、千寿郎が忙しなく隊士たちの世話に汗を流す姿を見て拳を握りしめる。
「千寿郎!!」
声を張り上げ柊が名前を呼ぶと慌ただしく汚れた洗濯カゴを持っていた千寿郎が柊の姿を捉え、笑顔を浮かべる。
「柊さん!お帰りなさい!すいません。出迎えもできずに。」
ニコニコと笑顔で駆け寄る可愛い弟にヨシヨシと頭を撫でる。
「ただいま。千寿郎。…で、なんだこれは?」
大きな声で千寿郎の名を呼んだことによって煉獄家に入り浸っていた隊士たちがなんだなんだと様子を伺ってるのがわかる。わかった上で柊は続ける。
「えっと、父上たちに稽古をつけてほしいと数人の隊士の方達がいらしてまして…。」
「うん。それは杏寿郎からの手紙で知っている。私が聞いているのは何故その隊士たちが汚した洗濯物を千寿郎が洗っているのか。そして庭に散乱したあの木刀や竹刀は誰が片付けるのか。あの破れた障子は誰の仕業で誰が修復するのか。」
そこまで言うと千寿郎はゴモゴモと顔を俯いてしまう。
「千寿郎を責めてる訳ではないんだ。君は偉い、立派だよ。誰も片付けないのだから優しい千寿郎は手を貸してしまう。だが、それに甘んじて全て任せると言うのはどうかと思うがな。」
柊はギロリと道場の方へ視線を向け千寿郎が持っていた洗濯物の持ち主であろう男たちへと殺気を飛ばす。