第10章 死神と炎の音
2人は適当に浴衣を身に纏い柊の部屋で泥のように眠った。
お互い帯も締めずに薄い掛け布団の下は憐れもない姿だ。
だが気にすることもなく2人は隙間がないほど抱き合って寝たのだ。
ーーーーーーーーーー
朝日が昇る頃、2人が眠る部屋に1人の男が忍び寄った。
「………。」
男はおもむろにクナイを取り出し、眠る柊に
向かってそれを投げつける。
ーーパシッーー
その瞬間柊は目を開き、素早く上体を起こすとそのクナイを受け止め、手に掴むと投げた男に向かって臨戦態勢を取る。
「へぇ。やるじゃねぇか。」
本気で投げてないとはいえ、寝込みを襲い、更にはこの至近距離でクナイを奪い、瞬時に動けるとは。
「君は誰だ?屋敷に足を踏み入れた時から気づいていたが、殺意がないので放置した。見る限り鬼殺隊の一員だとわかるが、ことと次第によっては斬らせてもらう。」
感情のない冷えた声色でそう告げると男はまあまあと両手を上げ柊を宥めようとする。
「煉獄の嫁がどんなやつか見に来たんだが…どうやら昨夜はお楽しみだったようだな。」
ニヤリと口角を上げて柊の体に視線を向けるとかろうじて肩に浴衣が引っ掛かっているだけで帯もないので正面に立つ男からは柊の体が全て見えている状態だ。
柊は自分の姿に気づき、慌てて浴衣の合わせを閉じる。
「それにしても俺が屋敷に入った時から気づいてたとはやるじゃねぇか。普通の人間は早々わからねぇ筈なんだけどなぁ。」
「…君は忍だろう。以前、そう言う部隊と交流戦をしたことがある。忍特有の気配はいくら消そうと私には通用しない。殺意もまるで無かったしな。あと、私は杏寿郎の嫁ではない。」
隠密部隊である二番隊との合同演習を思い出す。彼らは気配を消すのも上手いがなんせ殺意が剥き出しだった。下手すると本当に殺されそうになるから霊絡を手繰り寄せなんとか引き分けにしたのは記憶に新しい。
「杏寿郎、起きろ。君に客だ。」
後ろで未だに眠る杏寿郎の肩を揺すって起こす。
「ん…。客…?」ゆっくりと瞼を開け、目を開くと「よっ!」と手を挙げて挨拶する同僚の宇髄の姿が見える。
「…宇髄…か?」