第1章 死神と鬼狩り
柊は手に持つ着物を持って思考を巡らしている。
先ほどまでお互いの世界についての情報共有がひと段落し、杏寿郎は簡単な夜食を取りに行った。その間風呂に入っておいで。と言われた柊はありがたく風呂を頂くことにした。
なにしろ死神のシンボル、死覇装はユーバッハ襲来の戦闘で傷や汚れ、主に己の血がべっとり付いているからだ。
「すまない、ここは隊服の予備はあるが着物や浴衣はあまり常備は少なくてな。この浴衣でいいだろうか。大きさも俺が入るなら君も入るだろう。ついでに明日着る着物も隠にお願いしてこよう。」
その黒い着物はどうする?と聞いてくるが
「これは死神の証でもある私覇装だ。人間には目に見えないから気にした事ないが、黒い着物は縁起が悪いだろうな。特に思い入れはないから処分してくれても構わない。」
「そうか」
杏寿郎が部屋の隅にあった押し入れからゴソゴソと取り出し、手渡してくれたのは着物と手拭いで、風呂の場所を伝えるとすぐに行ってしまった。
ここで冒頭の思考だった。
これはどうしたものか。
手渡された浴衣は明らかに男ものであった。
あぁそうか。鬼殺隊なんて血生臭い職業だ。女性はいないのだろう。
大正時代なんて男尊女卑の風習が根強い。男は外で働き、女は家で働く。そうだったな。きっとこの屋敷には女物の常備はなく、あっても女中の仕事着くらいなのかもしれないな。
杏寿郎は優しいな。私を自身の客人として扱ってくれている。客人に女中用の着物を渡すなんて失礼に値すると考えたのだろう。
1人納得すると柊は早々と風呂場へと向かうのであった。
そもそも部屋を同室にした事もそうだが、杏寿郎が柊の事を男だと勘違いしているとは夢にも思わないのであった。