第1章 揺れる熱の狭間で
キッチンから漂うコーヒーの香りが、午後のリビングにゆったりと広がっていた。
窓際のレースカーテン越しに差し込む陽射しは柔らかく、外の蝉の声すらもBGMのように馴染んでいる。
女はテーブルにカップを3つ並べ、最後の1つにそっとミルクを落とした。
ふわりと白が広がる様を眺めていると、玄関の方から低い声と笑い声が重なって聞こえてくる。
な「――おじゃまします。」
落ち着いた声色の中に、少しだけ緊張を含んだトーン。
タ「ほら、遠慮しないで。上がって。」
キタニの声はいつも通りのくだけた調子だ。
やがて、キタニがドアを開けて顔を出した。
その隣には、長めの前髪越しにこちらを伺う青年――
なとりが立っていた。
写真やMVで見たままの柔らかい雰囲気で、けれど実物は少しだけ線が細く空気の中で静かに揺れるような存在感があった。