第1章 初夏
ロッカー室のドアの前で立ち止まった美佳は、ドアの窪みの取っ手に手をかけて開けようとした、が、中から声がしたためそのまま手を引いた。
(着替えてたらあれ、だし···もうちょっとまっていよう)
この時、どうしてノックをして入らなかったのかと思うのは、まだ少し先の話ではあるが、美佳はそのままロッカー室の壁に背を向けて寄りかかった。別に盗み聞きをする訳じゃないけれど、対面の窓に当たる雨粒を見ながらぼぅっとしていたら、何やら気になる言葉が聞こえて来た。
─ねぇ、そう言えば知ってる?
─なになに?
─先輩の何処かのクラスの人だったか忘れたけど、教室で忽然と姿を消したらしいよ。
─えぇー、何それ。神隠し?
─それがさぁー、あのお呪いをしたらしいよ?
─あれって···旧校舎の裏にある、祠の石を持って来て何も無ければ願いが叶うって言うお呪い?
─そう、それ。
(···お呪い?祠···?)
─で、それを試した先輩が···3日後に失踪したんだって。警察に捜索願いだしたけど見つからずに今日で1週間らしいよ。
─うわぁ···。こっわ。そんな一か八かのお呪いするとか···。
─有紗そう言うの好きじゃん、試してみなよー。
─え、やだよ。消えたくないし。
だんだんと近づいて来る足音に、美佳はもういいだろうとノックした。
「「きゃあああ!!」」
「うわぁ?!」
タイミングが悪かったらしく、中から悲鳴を上げた2人に美佳も驚き、また悲鳴を上げた。
「ごめんなさい!···驚かせちゃいました」
ガラガラとドアを開けて、美佳は思い切り頭を下げた。