第9章 離れることは許されない
「君さ、なんで僕から離れようとしてるの?」
いや、喋れるんかい。
そうか、反転術式だ。他人からの反転術式とはまた違うのだろう。
別、というか…質?なのかもしれないが。
驚いたまま固まっていると、答えなよと低めの声で言いながら手を強く握ってきた。
「君って、嘘つく子だっけ?嘘つく子は嫌いだなぁ。ずっと一緒にいるって言ったくせにさぁ…。」
「だ、だって……。」
「言い訳もきらーい。」
その蒼眼で見下ろされれば何も言えなくなる。
不機嫌な彼を見て、謝ることしか出来なかった。
「そんで…いつまでいんの?僕、左雨と結婚する気ないよ。好きだったことなんて一度もないし、あんたたちが決めた相手と結婚する気なんて、昔っからないよ。」
矛先は婚約者やご両親に向き、私は助かった…。
伊地知さんに帰らせるよう言うが、伊地知さんではどうすることも出来ず、悟くん自らベッドから降り、3人を追い返した。
伊地知さんには近いうちに高専に行くからと今日は帰らせる。
うっそ…2人きりになっちゃった。
「奏音、まずその服脱ごうか。それで、洗ってきて。ベタベタさせないで。」
声が冷たい…まだ怒りは治まらないようだ。
「さ、悟くんもシャワー浴びない…?2日間寝てたし…。」
「臭いって言いたいの?この僕が。」
全力で首を振ると、じゃあ早く浴びてきてと美しすぎる顔で睨まれて、迫力がすごすぎて慌てて浴室に逃げた。
一緒に浴びたかっただけなのに…。
でもそうか、ああいう風に怒るってことは溺愛ではないのかも?
いや、溺愛してるからこそ、怒ってるのか?
ちょっと怖すぎて頭が混乱している。
頭からシャワーを浴びていると扉が開いて、悟くんが入ってくる。
「やっぱ浴びる。だってセックス途中だったんだもん。」
だもん……まさか、またしようとしてるんじゃ…その身体で。
いや、反転術式を使っているのならもう身体は大丈夫なのか。
怒ってるのか怒っていないのかわからない男は、洗ってと目の前に立ちはだかった。
「は、え?自分で出来るよね…?」
「お前、断れる立場だと思ってんの?」
まだ怒ってましたね…初めてお前って言われたよ。
これ以上怒らせたくないので、大人しく彼の身体や髪を洗った。