第13章 気まぐれ【不死川編 第1話】
傷の痛みは日に日に和らいでいったが、心の傷はまだ癒えない。蝶屋敷の小さな部屋で、私は静かに布団に横たわり、白い天井を見つめていた。外から差し込む光は柔らかく、穏やかだ。けれど、あの日の記憶───家族を失った瞬間の惨劇が、頭の奥でざわめく。
「……うぅ……」
小さく吐息を漏らし、私は握りしめた布団に指を食い込ませる。戦う力はあるのに、あの時の自分は無力でしかなかった。怒りも悲しみも、全てが混ざり合って、胸が苦しくなる。
扉が静かに開き、黒い影が部屋に入ってきた。
…不死川実弥だった。彼の鋭い瞳が私をまっすぐ見据え、表情にはいつもの怒りの影はない。だが、その存在感だけで、心の奥底に緊張が走る。
「……生きていたか。」
低く、ぎりぎりの声。
言葉は少ないが、その一言に守られている感覚があった。私は顔を赤らめ、うなずくだけだった。
彼は布団の横に腰を下ろし、傷の手当てを見守る。アオイは遠慮がちに微笑みながら、私の肩に薬を塗っていた。
銀次郎が小さく「……珍しいな」とつぶやく。
普段なら怒鳴り散らす彼が、静かに座っている。胸の奥が、妙に温かい。
「……お前、まだ痛むだろ。」
不死川の言葉は素直で、乱暴さの中に優しさが滲む。私の心は揺れ、思わず目を伏せた。
「……はい……でも、大丈夫です。」
震える声で答えると、彼はわずかに目を細めた。